2020年3月19日(木)は何の日かご存知だろうか。ミュー(3)ジック(19)の日? いやいや、還暦を超えてなおアクション映画で活躍する名アクション俳優、ブルース・ウィリスの65回目の誕生日でしょ! ……とはいえウィリスの誕生日まで把握しているほどコアなファンはそう多くないと思うので、65歳のハッピーバースデーを兼ねてウィリスの代表作と、なんとなくスルーされていそうな近年の主演作品を紹介しておこう。
リュック・ベッソン監督が斬新なSF世界を確立した『フィフス・エレメント』
アラフォー世代の映画ファンはテレビ放映で何度も鑑賞しているであろう『フィフス・エレメント』(1997年)は、『ダイ・ハード』シリーズ(1988年~)でスターとなったウィリスが、クエンティン・タランティーノ監督の『パルプ・フィクション』(1994年)などを経て出演した超大作。少年時代のリュック・ベッソンが20年以上も脳内でこねくり回した妄想を、『レオン』(1994年)のヒットによって確保した巨額の予算で映画化した本格SF映画だ。
そんな本作はフランスのコミックアーティスト、ジャン=クロード・メジャースらがコンセプトデザインを手掛けているだけあって、ゴリゴリのSFながらバンド・デシネのようなレトロフューチャー感も漂うビジュアルが一番の見どころ。ベッソンのバンド・デシネ好きは筋金入りで、長年の映画化案を叶えた『ヴァレリアン 千の惑星の救世主』(2017年)の原作コミックもメジャースが作画を担当している。
The exhibition is amazing!the entire history of Valerian"the comic book"
— Luc Besson (@lucbesson) January 23, 2017
Bravo!👏🏻👏🏻👏🏻👏🏻. #valerian #badgalriri #caradelevingne #danedehaan pic.twitter.com/LZfZ2Yu7Sa
『フィフス・エレメント』の舞台は23世紀の地球で、人類は邪悪な生命体によって絶滅の危機にさらされている……というざっくりした設定。元特殊部隊員のタクシー運転手コーベン(ウィリス)が、地球に平和を取り戻す“フィフス・エレメント”の鍵を握る謎の少女ルーリー(ミラ・ジョヴォヴィッチ)と共に奮闘する、というお話だ。巻き込まれ型の主人公像は『ダイ・ハード』まんまだが、やっぱりウィリスは厄介事に巻き込まれてナンボだと再確認できる。
とにかく瑞々しいミラジョヴォ(当時22歳)の姿を拝めるというだけで価値のある作品だが、当時40歳手前のベッソンが撮影を機に彼女と結婚したことは思い返すだに腹立たしい! ちなみにミラやゲイリー・オールドマンらが身にまとうエキセントリックな衣装を手掛けたのは巨匠ジャン=ポール・ゴルチエだ。
ブロンソン主演の復讐映画をイーライ・ロスが楽しくリメイク!『デス・ウィッシュ』
イーライ・ロス監督の『デス・ウィッシュ』(2018年)は、チャールズ・ブロンソン主演/ディノ・デ・ラウレンティス製作『狼よさらば』(1974年:原題『DEATH WISH』)のリメイク。オリジナル版は、妻子を殺された男が自ら犯人たちに復讐するリベンジ・アクションであり、いわゆるヴィジランテ(自警団)映画の元祖と言われている名作だ。
後に起こる悲劇を強調するためベタ~に幸せいっぱいシーンから始まるオリジナル版と同じく、本作も冒頭の十数分で超幸せな家族の描写をじっくり見せるので、その後の展開を知っていると暗澹たる気持ちになる。殺しに積極的ではない犯人たちに“わざわざ”殺しをさせるような強引な演出は、オリジナル版の腐れチンピラどもの胸クソぶりと比べればよっぽどスマートで、むしろ現代社会の闇をリアルに表現していると言えるだろう。
なお、主人公ポールの職業は建築関係から外科医にチェンジ。ウィリスはどうしたって外科医には見えないが、裕福ゆえに強盗に狙われるという意味ではベターな改変だろう。そしてオリジナル版と同じく、捜査に消極的な警察に業を煮やしたポールは自ら犯人たちを“処刑”していくわけだが、本作は復讐パートからエンタメ度がグンとアップするところがミソだ。
ポールは暴力初心者ながら、外科医ならではの頭のキレで銃の扱いをソッコーで(しかもAC/DCの「Back In Black」をBGMに)マスターし、たいした葛藤もなく早々に復讐活動を開始。家族を失った悲しみからセラピーを受けていたくせに、復讐のスッキリ効果によって気分も晴れ晴れ! ……という不謹慎展開で笑いを誘うのだった。
過去の名作映画のリメイクは鬼門とされているが、明快なバイオレンス&ファニー方向に振り切った本作は、間違いなく成功の部類と言えるだろう。特に、日頃から鬱憤を溜めているブチギレ予備軍の皆さんはマストで鑑賞して、ウィリスの頑張りに免じて怒りを鞘に収めていただきたい。
誰だ省エネ演技とか言うのは! 日中戦争を舞台に繰り広げられる航空アクション『エア・ストライク』
ブルース・ウィリスとエイドリアン・ブロディ共演の中国映画『エア・ストライク』(2018年)は、日中戦争まっただ中の1941年が舞台の航空アクション。脆弱な中国空戦部隊は米軍から招いた百戦錬磨のジョンソン大佐(ウィリス)の指揮のもと、日本軍が誇る零戦に立ち向かう……というお話だ。なおブロディは軍医のスティーヴを演じているが、まさかの“顔見せ”だけなので忘れていただいて結構だ。
本作は、かつて日本軍が数ヶ月にわたって数百回の爆撃を行った“重慶爆撃”を題材にしていて、この戦略的爆撃の是非については現在も議論が続いているほど。劇中でも、当時の爆撃の苛烈さが全編にわたって徹底的に描かれているのだが、とにかく戦争の過酷さを伝えたいという制作陣の気概が伝わってくる。
そして中国側のキャストだけを見ても、主演クラスのリウ・イエを始め、ニコラス・ツェー、ファン・ビンビン、サイモン・ヤムと超豪華。韓国からもソン・スンホンを招いていて、(CGのクオリティはさておき)リアルな市街セットなど、かなりの予算をかけて製作されたことが伺える……のだが、なんとビンビンの脱税問題の煽りを受けて本国公開が中止になったというから、思わず膝から崩れ落ちそうになる。
ともあれ、こんな機会でもなければ完全に忘れ去られそうな珍作なので、ぜひウィリスのファンの皆さんには鑑賞に挑んでいただきたい。あ、ウィリスの娘ルーマーも(一瞬だけ)出演しているぞ!