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こんなことを世界が許すなんて 戦地シリアでカメラが映し出す 地獄と希望『娘は戦場で生まれた』

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ライター:#野中モモ
こんなことを世界が許すなんて 戦地シリアでカメラが映し出す 地獄と希望『娘は戦場で生まれた』
『娘は戦場で生まれた』© Channel 4 Television Corporation MMXIX

いまシリアで何が起こっているのか? カメラが捉えた衝撃の真実

『娘は戦場で生まれた』は、激しい内戦に痛めつけられているシリア最大の都市アレッポで、2012年から2016年までに撮影された映像を編集したドキュメンタリーである。監督・製作・撮影のワアド・アルカティーブは、シリアに暮らす人々の現実を伝えるべくカメラを回した。そこには、苦境のさなかで新しく家族を作りはじめた彼女自身の物語も組み込まれている。

『娘は戦場で生まれた』© Channel 4 Television Corporation MMXIX

シリアで何が起こっているのか。2011年よりアサド政権と反体制派が激しく衝突し、シリアは内戦状態にある――と報じられているが、その背景は複雑だ。ロシアや米国、周辺の国々や民族の思惑が絡み合っているらしく、何が正解なのかわからなくなって途方に暮れてしまう。ただひとつ確かなのは、軍事力を持つ者たちによる暴虐が続いており、そこに生きる人々が苦しめられているということだ。

2010年12月に「アラブの春」と呼ばれる民主化運動がはじまり、軍事独裁政権のもとにあるシリアでも、2011年春から、各地でのデモなど民主化を求める動きが現れた。しかし、政府側はこれを容赦なく攻撃し、さまざまな勢力が衝突して「第二次世界大戦後最悪の人道危機」と言われるほどに泥沼化。ロシア軍などによる無差別の空爆もおこなわれ、2011年以降、死亡者数は数十万人、国内避難民となった人々は620万人、国外へと逃れた人々は560万人にものぼるという。

日常的な戦闘や空爆によって人命がいとも簡単に奪われてしまう地獄

2011年、ワアド・アルカティーブはアレッポ大学でマーケティングを学ぶ学生だった。彼女はデモに参加するうち、動画を撮影してネットに公開し、アレッポの現状を世界に伝える市民ジャーナリストとしての活動をはじめたのだ。

『娘は戦場で生まれた』© Channel 4 Television Corporation MMXIX

アサド政権による弾圧・攻撃はどんどん激化し、平穏な日常は失われていく。ワアドは、そうした厳しい状況下で仲間たちと医療を支えるべく奮闘する医師ハムザ・アルカティーブと結婚し、新しい命を授かる。そして幼い娘を、アラビア語で「空」を意味する「サマ」と名付けた。ときに「こんな世界に生んでしまってごめんなさい」と自責の念にかられるワアド。しかしサマは、母親のワアドだけでなく周囲の大人たちにとっても希望をもたらす存在となるのだった。

戦闘や空爆が日常となり、人の命がたやすく傷つけられ奪われる地獄。そんな酷い状況にあっても、子どもたちの愛らしい笑顔や創意工夫といった、この世の宝物のような瞬間が生まれていることを、カメラは捉えている。

『娘は戦場で生まれた』© Channel 4 Television Corporation MMXIX

しかし、それは必死の抵抗によってなんとか紡がれているわずかな希望だ。喜びの瞬間は例外。この映画には、空爆に怯える時間や次々に病院に運び込まれる傷ついた人々の姿が、生々しく映し出される。担架で運ばれる負傷者そして死者、床に広がる血、泣き叫ぶ人々……。しかし、そのどぎつさは、映像で伝わるものがいかに限定されているのかを意識させもする。快適な環境で映画を観ている側は、そこにあるはずのにおい、熱、感触、疲労を体で感じていないのだから。

世界中の誰もが無関係ではいられない問いを突きつけてくる作品

人間の最悪の部分と最高の部分の両方を同時に差し出されて、観ているだけなのにぐったりしてしまう。「こんなことを世界が許すなんて」というワアドの言葉が心に重くのしかかる。情報技術が進化したにもかかわらず、強い者が弱い者を傷つける暴力は依然として止むことがなく、そこに新たな残虐性が生まれている。こんな世界でどう生きていけばいいのか――誰もが無関係ではいられない問いを突きつけてくる作品だ。

『娘は戦場で生まれた』© Channel 4 Television Corporation MMXIX

ワアドは現在、夫とふたりの娘と共にロンドンに暮らしている。『娘は戦場に生まれた』はイギリスのチャンネル4ニュース、ITNプロダクションズ、チャンネル4、アメリカのフロントラインの4社によって制作された。『Escape from ISIS(原題)』(2015年)などのTVドキュメンタリーシリーズを手掛けたエドワード・ワッツが共同監督を務めている。

文:野中モモ

『娘は戦場で生まれた』はシアター・イメージフォーラムほかにて2020年2月29日(土)より公開

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『娘は戦場で生まれた』

ジャーナリストに憧れる学生ワアドは、デモ運動への参加をきっかけにスマホでの撮影を始める。しかし、平和を願う彼女の想いとは裏腹に、内戦は激化の一途を辿り、独裁政権により美しかった都市は破壊されていく。そんな中、ワアドは医師を目指す若者ハムザと出会う。彼は仲間たちと廃墟の中に病院を設け、日々繰り返される空爆の犠牲者の治療にあたっていたが、多くは血まみれの床の上で命を落としていく。非情な世界の中で、二人は夫婦となり、彼らの間に新しい命が誕生する。彼女は自由と平和への願いを込めて、アラビア語で“空”を意味する“サマ”と名付けられた。幸せもつかの間、政府側の攻撃は激しさを増していき、ハムザの病院は街で最後の医療機関となる。明日をも知れぬ身で母となったワアドは家族や愛すべき人々の生きた証を映像として残すことを心に誓うのだった。すべては娘のために――。

制作年: 2019
監督: