あの“ウィンチェスター銃”にまつわる呪われた実話
いま日本ホラー映画界では実際の心霊スポットをモチーフにした『犬鳴村』(2019年)が話題だが、アメリカには実在する有名な幽霊屋敷を映画化した『ウィンチェスターハウス アメリカで最も呪われた屋敷』(2018年)という作品が存在する。
タイトルにもなっている“ウィンチェスター”といえば、19世紀西部開拓時代から人気を博す銃器メーカー、ウィンチェスター社。西部劇はもちろん『ランボー』(1982年)や『トレマーズ』(1989年)、最近だと2018年に公開された『ハロウィン』でジェイミー・リー・カーティスが豪快にウィンチェスター社製ライフルをぶっ放していた。そのウィンチェスター社の2代目当主、ウィリアム・ワート・ウィンチェスターの妻であるサラ・ウィンチェスターが、このお話の主人公だ。
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サラとウィリアムは1862年に結婚し、1866年には唯一の子アニーが生まれるが、誕生後わずか数週間で亡くなってしまう。その後、1880年にウィンチェスター社の創設者オリバー・ウィンチェスターが亡くなり、そのわずか3ヶ月後にはウィリアムも43歳の若さで結核で死去……。かくして未亡人となったサラだったが、もちろん莫大な財産が転がり込み、当時の金額で2050万ドル(現在の5億4300万ドル相当)と、ウィンチェスター社の株50%を受け取った。これによって、1日に約1000ドルの収入があったという。
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手もとにあるのは莫大な金。しかし、それ以外のすべてを失ったサラは悲しみに暮れ、うつ病を患ってしまう。そんなサラが救いを求めた先は霊媒師だった。ボストンで有名な霊媒師は、サラに「あなたに不幸が続くのは、ウィンチェスター銃で命を失った者たちの祟りだ。怨霊を鎮めるためにアメリカ西部に家を建てなさい。しかし、その家の建築は止めてはならぬ。建て続ければ、あなたは生き長らえるだろう。止めれば死ぬ」と助言したという。
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1885年。サラはカリフォルア州サンノゼに引っ越すと、未完成だった2階建ての納屋を購入し、さっそく邸宅の建築を開始。ウィンチェスター・ミステリー・ハウス誕生の瞬間である。
集まってくる幽霊たちを惑わすため? 地図がなければ出られない異常な建築
サラはありあまる金でもって、ハウスの建築には金に糸目を付けず、手彫りの寄木細工の床や金銀のシャンデリアなど豪華な装飾もふんだんに加えられ、ステンドグラスのほとんどはティファニー社製。当時としては珍しい温水シャワーや暖房装置も設置。階段の段差はサラが関節炎だったことから、どれも通常よりかなり低いものだった。
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しかし、建築家は雇わずにサラが現場監督に直接指示をするスタイルで、基本は大工の手だけによる建設だったためか、それとも何かしらの理由があったのか、どこにも通じないドアや天井まで続く階段、屋根に届いておらず意味を成さない煙突など、奇怪な建築も多かった。さらには、“13”という本来西洋圏において忌避されるはずの数字にこだわってほとんどの階段が13段だったり、なぜか蜘蛛の巣をモチーフにした装飾が散見されることも特徴的である。
ハウスは、1906年のサンフランシスコ大地震が起きるまで最大で7階建、部屋数160以上の大邸宅になっていた。普段から出入りしている人間でも一度迷うと出られなくなるほどで、家に入るには日々更新される地図の携帯が欠かせなかった。“ハウス”という規模を大きく逸脱した、まさに“迷宮”だったのだ。
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そして迷宮は、1922年9月5日にサラが心不全で睡眠中に死亡するまで、実に38年間・24時間・365日体制で、休むことなく増改築が続けられた。サラの訃報を告げられた作業中の大工たちは、打ち途中の釘もそのまま、うんざりした面持ちで迷宮を後にしたという。
そんなウィンチェスター・ミステリー・ハウスだが、サラ存命中から幽霊目撃談が絶えなかったという。幽霊たちは、もちろんウィンチェスター銃の犠牲者たちと信じられていて、サラは毎晩別の部屋で寝ていたと云われている。さらに、「サラは毎夜霊を集める儀式を開いていた」「奇怪な建築は集まってくる幽霊たちを惑わすためだった」とも云われているが、もちろん何もかもが定かではない。
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メディアに晒され消費され尽くしても薄まらない屋敷の禍々しさ!
そんなこんなのウィンチェスター・ミステリー・ハウスにまつわるエピソードに創作を加えて映画化したのが『ウィンチェスターハウス アメリカで最も呪われた屋敷』だ。
サラ役は、本格的なホラー映画初主演となるヘレン・ミレン。いつも喪服を着用し、黒いベールで顔を隠す不気味な出立ち。人を寄りつかせないオーラを纏うが、ベールの隙間からは人間的な弱さが垣間見える。そして日夜屋敷の増改築を繰り返すサラに、ウィンチェスター社の人間は「精神に問題があるのでは?」と疑問視。そこで雇われたのが、映画オリジナルの登場キャラで精神科医のエリック・プライス(ジェイソン・クラーク)だった。エリックはさっそくサラの邸宅に赴くが、そこで目にしたのはサラの狂気だけではなく……という筋だ。
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なぜサラは増改築を繰り返すのか? なぜ幽霊はハウスに集まるのか? 奇怪な設計はなんのためなのか? といった謎に対する答えを提示していてドラマ部分はしっかりと作られているが、その反面、奇怪なハウスの描写は大人しめ。一応ウィンチェスター・ミステリー・ハウス公認ということで外観の一部は本物を撮影していたりするが、基本は中身も外観もセット撮影。せっかくの題材が生かしきれていない印象……なのだが、いまとなっては地元でも人気の観光地と化しており、ハウス内部の探検ツアーや、13日の金曜日になるとイベントをやっていたりと、SNS映えもあって来客は後を絶たないという。YouTubeでいくらでもウィンチェスター・ミステリー・ハウスの映像が見れるし、心霊現象検証テレビ番組が撮影に入っていたりするので、「いまさら内部の面白みはいらないよね!」という潔いスタンスなのかもしれない。
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この映画が公開され、再び脚光を浴びたウィンチェスター・ミステリー・ハウスだが、それにしてもテレビや映画やSNSでいくら消費されても薄まらない禍々しさは凄まじい。アメリカの文化遺産保護制度のひとつ「合衆国国家歴史登録財」に登録されているのも納得で、たとえ跡形もなく消えても後世に語り継がないといけない一級のミステリー物件だ。
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文:市川力夫
『ウィンチェスターハウス アメリカで最も呪われた屋敷』はCS映画専門チャンネル ムービープラスで2020年8月放送
『ウィンチェスターハウス アメリカで最も呪われた屋敷』
“西部を征服した”ウィンチェスター銃の開発で莫大な財産を築いたウィンチェスター一族。その一員である未亡人サラは、銃で死亡した人々の亡霊から逃れるため、38年間毎日24時間、妄信的に屋敷の増改築を続けていた。その結果、奇怪な迷宮と化した屋敷に、精神科医のエリックがやってくる。
制作年: | 2018 |
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監督: | |
出演: |
CS映画専門チャンネル ムービープラスで2020年8月放送