第92回アカデミー賞 国際長編映画賞部門スウェーデン代表作品!
映画『ダンサー そして私たちは踊った』の主人公メラブは、ジョージアの国立舞踊団の新進ダンサー。幼馴染の少女マリをダンスパートナーに、小さな頃から伝統的な民族舞踊の練習に励んできた。舞踊団のダンサーにも階級があり、海外ツアーにも招かれるトップクラスのメイン団には十分な報酬が支払われるが、彼はまだ修行中の若い世代。昼間は一般の学校に通い、夜にはレストランのアルバイトで家計を助けながらレッスンに参加している。
メラブは祖母と母、兄と集合住宅で同居しているが、生活は苦しく、ときに食べものや電気代にも困るほど。かつてダンサーだった父親は大成することなく家を出てしまった。
そんな不安と緊張の張り詰めた日常を送るメラブの前に、ある日、舞踊団の新メンバーとして才能あふれる青年イラクリが現れる。同時にメイン団の欠員を補充するオーディションの開催が発表され、ダンサーたちはチャンスに沸き立つ。イラクリをライバルとして意識するうちに、いつしか知らなかった感情が芽生えはじめて戸惑うメラブ。特訓を重ねるうちにふたりの距離は縮まっていくのだが……。
保守的な民族舞踊の世界で主人公が自己を探求していく青春物語
ジョージア政府観光局のウェブサイトには、ジョージア舞踊の特徴として、「男性は高く飛び、空中で回転し、つま先立ちで勇敢さや技能をアピールし、女性は背筋を伸ばし、腕を水平に伸ばして優雅さをアピールします」とある。本作のポスターにも使用されている、男性ダンサーが驚異的なバネで跳び上がり、つま先立ちで停止する動きは、確かにエネルギッシュでたいへんかっこいい。
シネマート新宿、シネマート心斎橋、ヒューマントラストシネマ有楽町では#ダンサーそして私たちは踊った
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しかし、映画の中の指導者が「女性ダンサーには処女性が大事」と語気荒く叱責をはじめたりするから、これは年齢を重ねた女性には分が悪いな……と心配になってしまう。男は強くたくましく、女は可憐に清純に――この映画は、そんな極めて保守的なジェンダー観が支配する環境に生きる若き青年が、同性を愛する自分、そして自分だけの踊りを発見する青春物語だ。
保守的な国ジョージアでセクマイをテーマに映画を撮るハードルの高さ
ボーイ・ミーツ・ボーイなあらすじ紹介を読んで濃厚なロマンスを期待する人も多いかと思うが、男ふたりがバチバチ火花を散らすというより、メラブ青年の自己探求の旅という趣きの映画だ(「思ってたのと違う」とならないように書いておく)。家族や友達、学校、バイト先、舞踊団、さまざまな場所でさまざまな人と関わるうちに、自分を掴んでいくメラブ。その過程で見えてくるトビリシの街の風景や人々の暮らしぶりも、ジョージアについてよく知らない自分にとっては目新しく面白い。
夜の広場や裕福な友人宅でのホームパーティ、みんなが寝静まったあとのふたりだけの時間、見知らぬ人に連れ回されるバーやゲイ・クラブ……「ステージ上で見せる/見るダンス」だけでなく、「自然発生するダンス」や「みんなで踊るダンス」を愛してやまない人なら胸ときめくこと間違いなしの魅力的な場面がたくさんある。
本国でのプレミア上映は5000枚のチケットが即完! 心ない嫌がらせも……
監督・脚本のレヴァン・アキンはスウェーデン生まれだが、両親がジョージア人だったのだそうだ。主演のレヴァン・ゲルバヒアニはジョージアで活躍するコンテンポラリー・ダンサーで、本作がスクリーンデビュー。はじめは保守的なジョージア社会でセクシュアル・マイノリティの役を演じることのリスクに躊躇し、5回ほど断った末に引き受けたそうだ。
ジョージアでのプレミア上映では、5000枚のチケットが13分で完売したものの、グルジア正教会が反対声明を出し、上映中止を求める右翼団体が劇場に押しかけたという。邦題『ダンサー そして私たちは踊った』の「私たち」は、主人公のメラブと彼が恋するイラクリだけでなく、厳しい状況のもとで精一杯生きようとしてきた人々みんなのことなのだろうなと思った。
文:野中モモ
『ダンサー そして私たちは踊った』は2020年2月21日(金)よりシネマート新宿、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか公開
https://www.youtube.com/watch?v=-dJwfGGVaUc&feature=emb_title
『ダンサー そして私たちは踊った』
ジョージア 国立舞踊団で、幼少期からダンスパートナーであるマリとトレーニングを積んできたダンサーのメラブ。新星カリスマのイラクリの登場で芽生えたライバル心が、やがて抗えない欲望へと変化していき、彼の世界が大きく動き始める―。
制作年: | 2019 |
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2020年2月21日(金)よりシネマート新宿、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか公開