ネットカルチャーの「踊ってみた」と「町興し」が異色の融合を果たした、地方再生型ヒューマン・ダンスムービー『踊ってミタ』が2020年3月7日(土)より公開。実際にネットやSNSの世界で活躍しているクリエイターたちが参加したことでも話題だ。観光資源もない過疎化した田舎町を盛り上げるため、町長(中村優一)の命令の下、役場で働く三田(岡山天音)を中心に、町民を巻き込んだダンス動画制作に挑む物語。今回が初共演となる二人に撮影中のエピソードや作品の魅力についてたっぷり語って頂いた。
岡山「自分一人だけでは到達できないような瞬間に、毎回出会わせてもらっている」
―まずは主演の岡山さんから、本作がどんな映画かご紹介いただけますでしょうか。
岡山:飯塚(俊光)監督とご一緒するのはもう3回目になるんですが、本作は監督のカラーやテーマが芯として通った群像劇ですね。“ここじゃない”場所を探している人たち、ありのままの自分をなかなか認めてあげられない人たちが出会い、反響しあって、一歩前に進むお話です。
ぼくが演じた三田はクリエイターを志して上京したんですが、カタチにできず都落ちして田舎に戻って来て、そんな自分を受け入れられず悶々と過ごしている男です。そんな彼が、同じく悶々とした日々を過ごしている年齢も性別もバラバラの人たちと出会って、ひょんなことから踊ることになって……。とにかく盛りだくさんで、いろんな要素が詰まった映画ですね。
―中村さんは今までの役柄とは全く違う印象で、かなり強烈でした。
中村:父親が町長をやっていたから自分もなれた“おぼっちゃま町長”の丸山は、確かに今までやったことがない役でした。天音さん演じる三田にムチャ振りしたり、コスプレイヤーのお尻を追いかけたり、なかなかですよね。コスプレイヤーのお尻を追いかけることなんて滅多にないと思うので、貴重な経験だなと思いました(笑)。
飯塚監督との出会いも強烈で、監督のデビュー作『独裁者、古賀。』(2013年)を映画館に観に行って、上映が終わった後に声をかけたんです。そこから、ぼくは出演してなかったんですけど『ポエトリーエンジェル』(2017年)のトークゲストに呼んでいただいたりして、こうして飯塚監督×天音さんの作品に出演できて、とてもうれしいです。
―今回の作品ではダンスがメインになっていますが、実際に踊ってみていかがでしたか?
岡山:前作の『ポエトリーエンジェル』でも、「詩のボクシング」という実在する競技に挑戦しまして。そういう、芝居とは違うプレッシャーを課せられることが飯塚監督の現場には多い印象ですね。役者を信じてハードルを用意してくれる現場はなかなかないのし、芝居以外のところでここまでヒヤヒヤ・ヒリヒリする組はないですね。もちろん芝居とダンス、芝居と詩のボクシングという風に明確に分けられたものではなくて、それぞれがちゃんと影響しあっていて、なかなか自分一人だけでは到達できないような瞬間に、飯塚組では毎回出会わせてもらっているなと思いました。でも、本当にストレスでしたね(笑)。
―自宅でも練習されたんですか?
岡山:もちろん。あとは撮影が泊りがけだったので、撮影が終わった夜に河川敷とかで練習してましたね。
中村:もともとダンスはやってたんですか?
岡山:子どもの頃はやってたんですけど、それ以来だったのでけっこう大変でした。
中村:撮影中も、空いてる時間にイヤホンでずっと音楽を聴いて、座りながらダンスの練習をしてましたよね(笑)。
岡山:周りに上手い人が多かったので、プレッシャーでした。
―中村さんも踊ってみたかったんじゃないですか?
中村:踊ってみたかったです! 最初は踊る予定だったんですよ。
岡山:そうなんですか!?
中村:「ダンスレッスンがあるかもしれないよ」とは言われてたんですけど、気づいたらなくて。うらやましかったですよ、最後にみんなでカッコよく踊ってて。
「飯塚監督の作品に出てくるヒロインは毎回、主導権を握ってますね」
―お二人は初共演とのことですが、お互いの印象はいかがでしたか?
岡山:先ほど中村さんもおっしゃっていましたが、ああいうキャラクターのイメージがなかったので、ずっと見ていたい感じでしたね。
中村:(笑)。
岡山:今まで未開拓だったジャンルとは思えないほど勢いがあって。台本から、町長がどうやって立体的になっていくのかを現場で見るのがいつも楽しみでしたね。
中村:もともと天音さんは大好きな俳優さんの一人だったんです。劇中で天音さんが僕にプレゼンするシーンがあったんですけど、あの時もステージで一人でずっと練習していて、キメるところでキメないけど、それがキマってるみたいな。そのスタンスが大好きで、ああいうお芝居は本当に天才的だなって思います。
岡山:いやいや(照)。
―今回はお二人以外にも、濃い登場人物が大勢出てきますね。
中村:とにかく女性陣が強かったですね。監督は女性に対してMなんだと思います(笑)。
岡山:確かに監督の作品に出てくるヒロインは毎回主導権を握ってますね。その物語の中でどうバランスが変わっていくか? みたいなところもあると思うんですけど、造形としては大きく分けたらそうかもしれないですね。あんなに具体的な悪口を吐くなんて、そこまでビビッドなヒロイン像って、ありそうでなかなかないですよね。でも、観ているうちにだんだん可愛く観えてきて、気づいたら好きになっちゃってるみたいな。
中村:武田(玲奈)さんの役も、ちょっとインテリっぽくて弱いイメージだけど、結局はね(笑)。
「“天音さんが踊ってる”って、なかなかパワーワードだと思う」
―本作の注目ポイントでもありますが、ネット上で活躍しているクリエイターと一緒に作品を作るのはいかがでした?
中村:「踊ってみた」は、観る割合として若い人たちの方が多いと思うんです。なので、そういうネットのコンテンツと映画の融合が進んで、劇場に若い人たちが来てもらえるようになればいいなと思いますね。
岡山:言語化するのは難しいですけど、ものすごいエネルギーが秘められている世界だなと思いましたね。もともと存在は知っていましたけど、ボーカロイドの曲とかをダウンロードして聴くようになって、クオリティも高いし、ほかでは聴けないような楽曲もいっぱいあったりするので、自分がダンスを踊った曲以外は全部ダウンロードして聴いてます。自分が踊った曲はもう聴き込み過ぎていて、あのプレッシャーを思い出しちゃうのであまり聴かないです(笑)。
―振付を担当された、めろちんさんの動画はいかがですか?
岡山:めろちんさんの動画も思い出しちゃうから……撮影当時めっちゃ観てましたからね。できなさすぎて、ケータイを何度ベッドに叩きつけたか分からないです(笑)。普通に過ごしていたら、この先も触れていなかったかもしれない世界に深く浸かることができたので、また一つ開かれた感じがして、なんか得したなって思いますね。架空ではないリアルなものを本編でも使っているので、そういう新鮮さは観客の皆さんにも楽しんでもらえるんじゃないかなと思います。
―最後になりましたが、作品を楽しみにしている観客にメッセージをお願いします。
中村:「踊ってみた」という動画と「町興し」の融合が、どのように作品で表現されているのかという部分も観ていただきたいですし、個性的な人たちがたくさん出てきます。でもやっぱり、最後の岡山天音さんが踊っている姿が最大の注目ポイントですね(笑)。
岡山:いやいや(笑)。
中村:天音さんがバリバリ踊るなんて、多分イメージできないじゃないですか。「天音さんが踊ってる」って、なかなかパワーワードだと思うんですよ。思う存分最後まで踊っているので、観ていただけたらなと思います。
岡山:ネットの世界だったり、地方で暮らす人たちの話だったり、見方によってはニッチな映画なのかなって思われてしまうこともあると思うんですけど、たくさん出てくる登場人物は記号的なキャラクターではなくて、本当に生きていて立体的に血の通った人間です。しかも、それぞれがとってもチャーミングで奥行きがあるので、にぎやかに楽しんでもらいつつ、観終わった後に自分の日常や身近なところに、持ち帰ってもらえる部分がしっかりとスクリーンに映っている映画なんじゃないかなと思います。本当にラフな気持ちで劇場に来てもらって、楽しんでもらえる作品だなと思います。あとは、中村さんのぶっ飛んだ姿は個人的におすすめポイントです(笑)。町長のハジケっぷりはぜひ、劇場で堪能してください。
『踊ってミタ』は2020年3月7日(土)より新宿シネマカリテほか全国公開