• BANGER!!! トップ
  • >
  • アニメ
  • >
  • 押井守と今 敏……世界が称賛するアニメ界の巨匠はいかにして伝説となったのか? 代表作で振り返る2人のキャリア

押井守と今 敏……世界が称賛するアニメ界の巨匠はいかにして伝説となったのか? 代表作で振り返る2人のキャリア

  • Twitter
  • LINE
  • Facebook
ライター:#藤津亮太
押井守と今 敏……世界が称賛するアニメ界の巨匠はいかにして伝説となったのか? 代表作で振り返る2人のキャリア
『パプリカ』©MADHOUSE/Sony Pictures

80年代に本格的にキャリアをスタートさせた2人のレジェンド

日本を代表するアニメーション監督である押井守と今 敏。アニメ界のアカデミー賞とも言われるアニー賞のウィンザー・マッケイ賞(生涯功労賞)を、2016年に押井監督が、2019年に今 敏監督が受賞していることからも、その評価の高さがうかがえる。

今 敏は大学在学中の1984年に漫画家としてデビューし、大友克洋のアシスタントとしても働くことになった。大友が原作・脚本を手掛けたアニメ『老人Z』(1991年)の美術設定に関わったことからアニメの世界との接点が生まれる。

一方、TVアニメ『うる星やつら』(1981~1986年)で監督デビューをした押井は、ファンタジー長編『天使のたまご』(1985年)を発表後、その個性的な作風が原因となって、仕事の間隔が開きがちになっていた。しかしOVA『機動警察パトレイバー』(第1期:1988年)の監督を引き受けたことをきっかけにして、久々に『機動警察パトレイバー the Movie』(1989年)で映画を監督する機会を得ていた。

押井と今による漫画連載、そして『イノセンス』の誕生

こうして今 敏がアニメ業界でキャリアを積んでいく過程と、押井が再び定期的にアニメーション映画を監督するタイミングが奇跡的に重なってできたのが『機動警察パトレイバー2 the Movie』(1993年)だった。

押井は『機動警察パトレイバー the Movie』の時に、レイアウト(画面の構図を決定する画)を精度高く描くことで空間感を表現し、演出家の意図を徹底するという演出法に挑戦した。これはレイアウト担当として信用できるアニメーターを揃えられなければ成立しない手法でもある。

そして、『機機動警察パトレイバー the Movie』の成功の手応えを踏まえ、押井が満を持して臨んだのが『機動警察パトレイバー2 the Movie』だ。レイアウト担当者は、前作が2人だったのに対し2作目は6人と、3倍に増えている。その中のひとりが今 敏だった。この2作目について押井は「映画作りのシステムが完成した」と語っており、今 敏はレイアウトマンとしてその一翼を担ったのである。この時の今 敏の仕事は、2作目のレイアウトをまとめ押井が解説をつけた書籍「Methods ~押井守『パトレイバー2』演出ノート」(復刊ドットコム刊)で見ることができる。

1994年からは、押井が原作を担当し今 敏が画を担当するという漫画「セラフィム 2億6661万3336の翼」が月刊誌アニメージュで連載される。だが、こちらは連載が進むにつれて2人の間に意見の齟齬が生まれ、休載のまま未完に終わった。

その後、押井は『GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊』(1995年)を経て、3DCGを使った世界表現に興味を移し『G.R.M.』(ガルム戦記)の準備を始めたが1999年に企画凍結。

https://www.youtube.com/watch?v=rvG6LwcdVlg

そうしたデジタルでの知見を踏まえ、デジタルを介することでアニメ的発想と実写的発想を融合しようと挑んだのが『イノセンス』(2004年)である。例えば中盤のコンビニでの銃撃シーンは、コンビニがまるごと3DCGでモデリングされ、その空間の中で自在にカメラポジションを決められるようにできていた。これは『機動警察パトレイバー the Movie』から始まった、「アニメで世界をどう演出するのか」という押井の究極の挑戦だった。

『イノセンス』
4K Ultra HD + 4Kリマスター・ブルーレイ (9,800円+税)
4Kリマスター・ブルーレイ(5,800円+税)、DVD(3,800円+税)
© 2004 士郎正宗/講談社・IG,ITNDDTD
https://www.disney.co.jp/studio/others/0522.html

寡作の天才・今 敏が遺した『東京ゴッドファーザーズ』と『パプリカ』

一方、今 敏は『機動警察パトレイバー2 the Movie』以降、演出へとその軸足を移し、『PERFECT BLUE パーフェクト ブルー』(1998年)で監督デビューを果たす。このたびCS映画専門チャンネル ムービープラスで放送される『東京ゴッドファーザーズ』(2003年)と『パプリカ』(2006年)は、映画第3作と第4作にあたる。

今 敏は、大友や押井作品で発揮したリアルな世界を描き出す力を、自作ではひとひねりして使った。今 敏作品のリアルに見える世界は、リアルなままであることはない。それは突然、見知らぬ世界へと変容し、観客を幻惑するものなのだ。

『パプリカ』
価格:Blue-ray¥5,695+税/DVD¥4,743+税
発売・販売:(株)ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント

『東京ゴッドファーザーズ』は、それを使ってクリスマスの奇跡の物語を描き出し(※以前の記事参照)、『パプリカ』では夢と現実が混濁していく世界を表現する。こうして今 敏は4本の映画と1つのTVシリーズ、1つの短編を監督して、2010年に急逝した。

CS映画専門チャンネル ムービープラスで放送される3作品(『イノセンス』『東京ゴッドファーザーズ』『パプリカ』)は、こういう時間の流れの中で生まれたものなのだ。

『パプリカ』©MADHOUSE/Sony Pictures Entertainment(Japan)Inc.

文:藤津亮太

『イノセンス』『東京ゴッドファーザーズ』『パプリカ』はCS映画専門チャンネル ムービープラスで2020年2~3月放送

Share On
  • Twitter
  • LINE
  • Facebook