Fワード上等、女王様のお通りだ!!
「これ私が本当にデザインしたの?糞食らえね」「こんなクズ、ショーに出せないわ。見るも無残な姿じゃないの」
ワオ、こんなにFワードを連発する77歳のおばあちゃんを見たことがない!それもそのはずだ。何故なら彼女は、そんじょそこらの“おばあちゃん”ではない。デイム・ヴィヴィアン・ウエストウッドなのだ。
我々にその事実を明確にさせたうえで、彼女の生い立ちから現在に至るまで、その軌跡を追うドキュメンタリー『ヴィヴィアン・ウエストウッド 最強のエレガンス』が公開された。
痛快!「知的好奇心を満たしてくれない男とは別れる」
本作は全体を通して、ヴィヴィアン・ウエストウッドの生涯を本人の言葉で振り返る。それを彩るのは美しい色とりどりのファッションアイテムなのだが、あくまで人生にフォーカスしていることで、色々な人が観やすいドキュメンタリーとなっている。
特に彼女の恋愛事情はドラマチックだ。
2016年秋冬のロンドン ファッションウィークのショー前夜に、アシスタントが勝手につけたタッキーなリブをコキおろしたヴィヴィアン。「もう辞めどきなのかな」とグチるが、その横で彼女を支えるのは同ブランドのクリエイティブディレクターであり、夫のアンドレアス・クロンターラーだ。この夫が、とにかく若いしイケメン。さすがヴィヴィアン・ウエストウッドレベルになれば、自分より若い男を従えることも容易いのかと度肝を抜かれてしまう。
しかし彼らの、いや、彼女の愛の物語はそんなに簡単で浅はかなものではなかった。
はじめに彼女は62年に、デレク・ウエストウッドと結婚をした。今の彼女からは到底思い浮かばない、アメリカン・ドリームの象徴ともいえる献身的なハウス・ワイフを自分もしていたという。しかし、一児をもうけた後わずか3年でその結婚生活に終止符を打った。そんな絵に書いたような専業主婦の生活は偽りだと思ったからだけではない。デレクが、“自分の知的好奇心を満たさなかった”からだというのだ。くー、痺れる!
直後に出会った男が、彼女の人生に大きく影響を与えた男マルコムだ。彼との間にも一児をもうけたが、籍を入れることはなかった。マルコムはピンナップにハマっていたという。写真の中で海辺に打ち上げられたような、服がところどころほつれて破けた女性たち。彼女はそこからインスピレーションを受け、今日のヴィヴィアン・ウエストウッドのスタイルはあるのだ。
マルコムとはパンクの道も突き進んだ。彼こそ、セックス・ピストルズを発掘した男だったのだ。彼らは、まさに理想的なパートナーのはずだった。
別れた男が嫉妬、逆襲によって一文無しになっていた
しかし、その後彼らは決別することになる。理由は、ヴィヴィアンのファッションデザイナーとしての躍進・成功だ。一方マルコムはというと、どんどん彼の発信力を失っていった。お察しの通り、そうなるとヴィヴィアンは次に進むタイプだ。
すると、このマルコムは暴れに暴れまくって、彼女の人生をどん底に突き落した。彼女はその頃、現「ヴィヴィアン・ウエストウッド」のCEOカルロ・ダマリオと出会い、彼のおかげでジョルジオ・アルマーニからの出資という経営見直しのチャンスに巡り合う。
しかし、依然として共同経営者だったマルコムが邪魔し、彼女は85年に一文無しになったそうだ!信じられない!
ところがパンクの女王はやはり、強い。そこから古びたミシン一つでまた再スタートし、5年後の90年とその翌年に連続でデザイナー・オブ・ザ・イヤーを受賞した。その頃世間の誰もが、彼女のファッションをバカにしていた。しかし、アンチに対してもパンクな態度で毅然としていたことで、もう誰も彼女を無視することができなくなったのだ。そんな彼女曰く、「大事なのは人目を引くこと、即行動すること。そして物事と関わりあうこと」。
“教師”の一面、地に足のついた事業家としての顔
兎にも角にも、ヴィヴィアン・ウエストウッドには事業家としての頭脳が最初からあった。学生時代アートスクールに進学することを勧められた彼女は、家庭が裕福ではなかったので1学期で退学。しかし、「アーティストになれなくても、美術の先生にはなれる」と思い、教師の道へと進んだのだ。最初から、常に彼女は地に足のついた物の考え方をしていたことが伺える。
その後、彼女は生涯の中でなんども教鞭を執り、アシスタント曰く「昔ながらの先生タイプ」の人なのだという。
教え子を自分のショーに呼び、感銘を受けた生徒をアトリエに寝泊まりさせてあげて、次のショーを手伝わせるなど粋な先生だったそうだ。ちなみに、その教え子が後の夫となるアンドレアスなのだけれども。
そして事業がここまで成長した今も、拡大よりかはむしろ縮小させたがっているヴィヴィアン。彼女は実際、ブランドのクリエイションの全てを手がけ、把握している。一見、当たり前そうに聞こえるが、ここまで巨大化したブランドでは珍しいことでもある。さらに、マーケティングに関して分からないことがあれば「何をされているのか、さっぱり分からないから教えなさい」と、事業におけるブラックボックスを一切無くそうとするのだ。世界各地の店舗で販売されている商品の全てを理解し、コンセプトが共有されていなければ販売をやめさせる。
「最高のものを売りたいの。拡大じゃなくて、顧客のハートを掴むのよ」
「事業は拡大したくない。身近な問題に対処できなくなるからよ」
「悪いけどお金には興味がないわ」と悪戯っ子な顔をする彼女。本作を通して、ファッションだけではなくビジネスの側面でも学びが多いはず。
パンク女王のミッション、それは「地球をより良い場所に変える」こと
ここまで語った本作で描かれているヴィヴィアンの物語は、氷山の一角に過ぎない。実は、彼女はデザイナーや事業家の他に、熱心な環境保護活動家でもある。「自分の住んでいる地球をより良い場所に変える」、そう言う彼女ほど生きること実直で、物事を真摯に受け止めながら生きている人はいないのではないだろうか。
もはや感性を刺激されるどころか、人生観も変わってしまうかもしれないドキュメンタリー『ヴィヴィアン・ウエストウッド 最強のエレガンス』は2018年12月28日 (金)より、 角川シネマ有楽町、新宿バルト9ほか全国ロードショー。
ヴィヴィアン・ウエストウッド 最強のエレガンス
2016年ロンドン・ファッション・ウィーク秋冬ショー前夜。ヴィヴィアン・ウエストウッドのアトリエでは、最終チェックに追われるデザイナーとスタッフたちがいた。デザイナーであるヴィヴィアンは、1枚1枚を細かくチェックし、指示と違う服には「こんなクズ、ショーに出せないわ」と容赦なく言い放つ。60年代から現代に至るまで、数々の伝説を持つデザイナー本人にカメラが向けられる。「過去の話は退屈よ」と前置きしてから、自らの波乱万丈な半生について、ゆっくりと語り始めた。
制作年: | 2018 |
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監督: | |
出演: |