いつもシリアス顔のD・オイェロウォがドタバタコメディに挑戦!
映画ファンの皆さんはデヴィッド・オイェロウォという俳優に、どんなイメージをお持ちだろうか。最強トムクル映画『アウトロー』(2012年)では殺しも辞さない汚職警官を演じ、キング牧師の伝記映画『グローリー/明日への行進』(2014年)ではマーティン・ルーサー・キング・Jr.役で世界を奮わせたオイェロウォは、アクション~SFなどのジャンル映画からノンフィクションの系までこなす名優だが、その出演作の多くがシリアス路線だ。
そんなオイェロウォが主演する『グリンゴ/最強の悪運男』(2018年)は、まさかまさかの超ブラックなサスペンス・コメディ。彼が演じる主人公ハロルドは、友人のリチャードが経営する製薬会社で真面目一筋に働いてきたが、信頼していたリチャードに裏切られ解雇寸前の状態という事実を知る。しかも、メキシコに赴任していたため最愛の妻にスカイプで離婚を迫られるなど、彼の人生はまさに風前の灯だった……。
リチャード役のジョエル・エドガートンもコメディのイメージはほぼ無いが、本作では金と女にしか興味のないどケチなクズ野郎を好演。ちなみに、本作の監督を務めるナッシュ・エドガートンは彼の実兄だ。そして、リチャードの共同経営者兼愛人エレーンを演じるシャーリーズ・セロンは『ロング・ショット 僕と彼女のありえない恋』(2019年)でロマコメとの好相性を証明し、本作では製作も務めるなどますますノリノリである。
偽装誘拐がガチの拉致に発展し殺し屋まで参戦の超カオス状態に!
まさに踏んだり蹴ったりな状況から始まる本作。気弱なハロルドがひどい目に遭うドタバタコメディでありながら、彼が自身の誘拐を自作自演したところから予期せぬ方向に転がりまくり、かなりスリリングな展開に突っ込んでいくところが大きな魅力だ。誘拐を自作自演し大金をせしめようと企むハロルドは、すべてを失いかけてプッツンした怖いものなし状態に! ……というわけでもなく、生真面目で臆病な性格はそのまんま。そのクソ真面目さが可笑しみを誘い、いつの間にか彼を全力で応援してしまうはず。
しかし、その誘拐騒動にリチャードの裏稼業であるドラッグビジネスの利権が絡み、ハロルドは本気で怖いメキシコの麻薬組織にガチで誘拐されてしまったから、さあ大変。さらに、彼が死ねば会社に多額の保険金が入ることに気づいたリチャードが「身代金なんて誰が払うか! 俺のために死ね!!」とばかりに元傭兵のミッチ(シャールト・コプリー)を殺し屋としてメキシコに送り込んだものだから、ますます事態はややこしくなっていくのだった。
ショックのあまり完全な無表情になるオイェロウォが結局一番面白い!
そんなスリリングな展開の中に、リチャードとエレーンの人でなしぶりや、麻薬組織のボスが放つ悪趣味なジョーク(※褒めてます)が随所に挿入され、最後は笑っていられない状況に陥っていく。いわゆるリベンジものとも言えるが、クエンティン・タランティーノなどに代表される90年代クライムコメディ映画の香りも漂い、映画ファンならばニヤリとさせられるはず。ちなみに故マイケル・ジャクソンの娘、パリスが映画初演技を披露しているので、アマンダ・サイフリッドが登場するギターショップのシーンは要チェック。
ひたすらビビってキャーキャー騒ぐだけなのに、悪人たちのマヌケさもあって、毎回ギリギリのところで命拾いするハロルド。それを悪運が強いと言うべきなのかどうか微妙なところだが、キリスト教に対する目配せもあり、過去に自身が犯した罪からは逃がれられないということが、キャラクターの運命を通して贖罪として描かれている感もある。ともあれ、猛烈に面白いのも放心状態の無の表情をたびたび見せるオイェロウォ自身だったりするのだが、少々エグいところも見せる“ほろ苦オトナ向けサスペンスコメディ”を求めている映画ファンには是非オススメしたい作品だ。
『グリンゴ/最強の悪運男』は2020年2月7日(金)より新宿バルト9ほか全国ロードショー
『グリンゴ/最強の悪運男』
製薬会社の管理部長としてシカゴ本社とメキシコ工場を行き来し、朝から晩までマジメに働いたのに、もうすぐクビに! 友達だったはずの経営者に騙された上に、最愛の妻にまで離婚される始末… パッとしない負け犬人生を歩んではきたけれど、さすがにこれほどのどん底は初めてのハロルドは、極悪モンスター上司のリチャードと、彼の愛人で共同経営者のエレーンへのリベンジを誓う。メキシコで〈偽装誘拐〉を演じ、身代金5億円を奪うという、生涯初の悪事を企てたのだ。ところが、ハロルドが死ねば、会社に保険金が入ることに気づいたリチャードは殺し屋を雇う。さらに、リチャードの会社の医療大麻の製造レシピを狙うメキシコの麻薬組織のボスが、ハロルドの〈本気の誘拐〉に参戦! 果たして、貯めに貯めた悪運を爆発させた、ハロルドの一発大逆転の切り札とは?
制作年: | 2018 |
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監督: | |
出演: |
2020年2月7日(金)より新宿バルト9ほか全国ロードショー