「モノマネじゃなく、私自身の皺や表情を見せる必要があると監督が言ってくれた」
1939年『オズの魔法使い』ドロシー役に大抜擢されたジュディ・ガーランド。『スタア誕生』でのアカデミー賞主演女優賞ノミネートなどハリウッドの黄金期を支える栄光と、不眠症や不安神経症に悩まされ入退院を繰り返した闇。本作はそんなジュディが47歳という若さで亡くなる半年前に行われた、ロンドン公演での日々を描く感動の実話だ。
―あなたの演技は、まるでジュディ・ガーランドが憑依しているかのようでした。
今回の役柄に関しては、これまでの経験とはぜんぜん違っていたの。いろんな部門の人たちとの共同作業で、それぞれ異なる目標を達成するためにがんばってくれていた。だから、私1人の手柄じゃなくて、チームとしてのコラボレーションの結果ね。衣装に関してはジェイニー・ティーマイム、メイクに関してはジェレミーとロブ。音楽に関してはアンドリュー(・キニー)がリハーサルのときにピアノを弾いてくれていて、常に複数の要素を同時進行で進めていたの。
いろいろチャレンジして、うまくいくことは採用して、そうじゃないものは却下していった。メイクに関しては、頬を大きくしていって、自分自身の顔から離れれば離れるほど、私は本物に近づけた気がしていたわ。でも、メイクの厚みが増すたびに、顔の表現が限られてしまう。それで、ルパート(・グールド監督)は、似せることよりも表情を大事にしようと言ってくれたの。モノマネではなく、私自身の顔や皺、表情を見せる必要がある、とね。実はそうするのに抵抗があったんだけど、いまでは彼の判断が正しかったことが分かる。心から感謝してるわ。
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―ステージでのパフォーマンスが圧巻でしたが、どのように準備したのですか?
過密スケジュールであることが、これほどありがたいと思ったことはないわ。だって時間に余裕があったら、ステージの場面の撮影のことが気になって不安に陥ってしまっていただろうから。この映画の撮影はタイトで、短い期間に詰め込まなくてはいけなかったから、悩んでいる暇はなかったわ。あのステージの場面では、幸いにも観客席に2000人くらいの役者がいた。約1週間かけて撮影したんだけど、そのあいだに彼らと打ち解けて、一緒にシーンを作り上げることができるようになったの。結果的に、私にとって特別なシーンになったわ。
「デビュー当時から常に完璧なパフォーマンスを期待されたジュディは恐ろしくて大変だったろうと思う」
―ジュディ・ガーランドは注目を集めることを好むタイプでしたが、あなた自身はどうですか?
私はちょっと違うかな。私の場合は、観客をあまり意識していない。クルーとのコラボレーションがもっとも大事なの。監督や撮影監督が私の家族となり、共犯者になる。秘密の瞬間を共有し、彼らと一緒になにかを生み出すときこそ、私がもっとも幸せを感じるときね。
―セレブリティとして、他人に求められるイメージを維持することの大変さを実感することはありますか?
私はアメリカで暮らす1人の女性として、程度の差こそあれ、他人の期待を背負うことはある。そして、ハリウッドでは自分のルックスが話題になるし、好奇の目で見られることもある。周囲の期待に逆らった役を演じると、それだけ厳しい目にさらされることになる。でも、例えばかつてマリリン・モンローが耐えなければいけなかったレベルのプレッシャーは体験してない。彼女は、いつもグラマラスで美しくあることを期待されていた。
ジュディ・ガーランドに関しては、常に完璧なパフォーマンスを期待されていた。1939年のデビュー当時から一度も衰えることなく、完璧に歌い上げることを期待されていたの。本人にとっては、恐ろしくて大変だったろうと思う。幸いにも私自身はそんな期待を抱かれていなかったし、意識してもいなかった。もしかしたら、どこかでそういう話があったのかもしれないけれど、知らなかったおかげで健康的でいられたわ。
「音楽の好みは変わるけど、自分に語りかけてくるミュージシャンは変わらない」
―あなたにとって音楽はどのような存在ですか?
いつもたくさん聴いているし、自分にとって深い意味を持つ音楽がたくさんあるの。映画の撮影のときには、たいてい夢中になっているアルバムがあるから、あとでその音楽を聴くと撮影していたときの気持ちにすぐに戻ることができる。どの曲も、そのときに関わっていた作品で到達しようとしていたムードを持っていて。だから作品の数だけ、思い出のアルバムがあるの。
―共通点はありますか?
音楽の好みはコロコロ変わるけど、自分に語りかけてくるミュージシャンは変わらない。ザ・ビートルズは自分にとって、とても大事。トム・ペティも大事だし、アヴェット・ブラザーズやヴィクター・ウェインライトもね。そして、ジュディ・ガーランドもそう。もっとも、明日同じ質問をされたら、まったく別のアーティストの名前を挙げるかもしれないけどね(笑)。
取材・文:小西未来
『ジュディ 虹の彼方に』は2020年3月6日(金)より全国ロードショー
『ジュディ 虹の彼方に』
かつてはミュージカル映画の大スターとしてハリウッドに君臨していたジュディ・ガーランドが、窮地に立たされていた。1968年、度重なる遅刻や無断欠勤のせいで映画出演のオファーも途絶え、今では巡業ショーで生計を立てているのだが、住む家もなく借金は膨らむばかり。まだ幼い娘と息子をやむなく元夫に預けたジュディは、ロンドンのクラブに出演するために独り旅立つ。英国での人気は今も健在だったが、いざ初日を迎えると、プレッシャーから「歌えない」と逃げ出そうとするジュディ。だが、一歩ステージに上がると、たちまち一流エンタテイナーと化して観客を魅了する。ショーは大盛況でメディアの評判も上々で、新しい恋とも巡り会い、明るい未来に心躍るジュディ。だが、子供たちの心が離れていく恐れと、全存在を歌に込める疲労から追い詰められ、ついには舞台でも失態を犯してしまう。
制作年: | 2019 |
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監督: |
2020年3月6日(金)より全国ロードショー