「車に関心がない人も楽しめる映画になっているはずだよ」
―カーレースを題材にした映画は過去にもありましたが、この作品はとても新鮮に映りました。
たしかに車を題材にした映画はたくさんあるが、レースそのものを題材にしたものは実はあまりないんだ。『ワイルド・スピード』シリーズ(2001年~)を入れるかどうかは意見が分かれるだろうが、『グラン・プリ』(1966年)、『栄光のル・マン』(1971年)くらいしか思い浮かばない。あとは最近の『ラッシュ/プライドと友情』(2013年)くらいか。だから西部劇と同様、いまではあまり作られていないジャンルだ。
私自身、実は車好きというわけではなかった。この映画を通じて気持ちに変化は起きたが、私が惹かれたのは登場人物たちだ。だからレース場面を描くときは、キャラクターをきちんと描くことを心がけたよ。あたかも観客が一緒に車に乗って、主人公の疲労や恐怖、不安などを感じることができるようにね。テレビのレース中継のように、目の前を高速で過ぎ去っていく車を追いかけるのではなく、車のなかで起きているドラマを優先したんだ。
―人間ドラマにも重点が置かれていますね。
ああ、レーシングファンが想像するようなカーレース映画は意図的に避けたんだ。映画のクルーやキャストには、『プライベート・ライアン』(1998年)の逆パターンの映画だと、冗談半分で説明していたほどだよ。最初の90分は普通のドラマで、派手なアクションは最後にとってあるから。最後のル・マンまではレースはほとんどなくて、デイトナでのレースもかなりかいつまんでいる。この映画は、主人公たちが抱える欠点や恐怖についての映画であり、車に関心がない人も楽しめる作品になっているはずだ。
「レーシングカーを作ってレースに挑むというプロセスは映画作りとそっくり」
―クリスチャン・ベイルとマット・デイモンを起用した理由は?
二人とも古くからの知り合いなんだ。クリスチャンに関しては『3時10分、決断のとき』(2007年)でタッグを組む前からの知り合いだし、マットに関しては90年代後半からの知り合いだよ。キャロル・シェルビー役とケン・マイルズ役において、彼らは我々の第一候補で、幸い興味を持ってくれた。彼らは卓越した役者であるばかりか、人間として素晴らしい。
これは友情についての物語だから、現場にマイナスのエネルギーを持ち込むような役者は起用したくなかったんだ。さまざまな提案にオープンで、共演者やスタッフみんなにたいして分け隔てなく対応できる役者を求めていた。マットとクリスチャンの二人は理想的な人格者だから、現場に素晴らしい雰囲気をもたらしてくれたね。おかげでピットにいる連中ひとりひとりが、深い信頼で結ばれているように描くことができた。いったん彼らのキャスティングが済んだら、演出に関してはほとんどなにもしなくてよかったほどだよ。
―もともとは自動車に興味がなかったとのことですが、この作品を通じてどんな発見がありましたか?
レース業界が、映画の世界と似ていることだね。シェルビーのもとで働く人々は個性的なスタッフの寄せ集めで、アメリカ人がいればヨーロッパ人もいるし、退役軍人も元サーファーもいる。ものすごくバラエティ豊かだ。これは映画のスタッフも変わらない。また、映画の役者やスタッフは出資者を説得して、自分たちのヴィジョンを貫こうとする。でも、出資者にとっては収支こそが大事で、作品をどうやって宣伝するかを気にかけている。だから、レーシングカーを作り、レースに挑むというプロセスは、映画作りとそっくりだ。映画のワールドプレミアにおいて生死が決まる点もね。だからこそ、この物語には深く共感できたよ。
取材・文:小西未来
『フォードvsフェラーリ』は2020年1月10日(金)より全国ロードショー
『フォードvsフェラーリ』
元レーサーのカーデザイナー、キャロル・シェルビーのもとに、巨大企業フォードから信じがたいオファーが届く。それはル・マン24時間レースで6連覇中の王者、フェラーリに対抗できる新たなレースカーを開発してほしいとの依頼だった。心臓の病でレース界から身を退いた苦い過去を持つシェルビーは、そのあまりにも困難な任務に挑むため、型破りなドライバー、ケン・マイルズをチームに招き入れる。しかし彼らの行く手には、開発におけるメカニックなトラブルにとどまらない幾多の難題が待ち受けていた。それでもレースへの純粋な情熱を共有する男たちは、いつしか固い友情で結ばれ、フェラーリとの決戦の地、ル・マンに乗り込んでいくのだった……。
制作年: | 2019 |
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監督: | |
出演: |
2020年1月10日(金)より全国ロードショー