ホプキンス&プライスが新旧教皇に怖いくらいクリソツ!
アンソニー・ホプキンスとジョナサン・プライスの名優競演も話題のNetflixオリジナル作品『2人のローマ教皇』が2019年12月20日(金)より配信中。かつて保守派と改革派に分かれ争った2人のローマ教皇の実際の会話をベースに、『シティ・オブ・ゴッド』(2002年)『ナイロビの蜂』(2005年)のフェルナンド・メイレレス監督が、カトリック教会の歴史上重要な転換点の裏側を描いた話題作だ。
とはいえ、多くの日本人が「ローマ教皇って何する人? えらいの??」みたいな認識だと思うので、念のためざっくりを解説しておこう。ローマ教皇とは、カトリック教会における最高位聖職者、つまりキリスト教最大の教派のボス。カトリックの総本山サン・ピエトロ大聖堂がある、ローマのバチカン市国を統治する最高権力者である。
そんなやんごとなき聖職者を描いた『2人のローマ教皇』は、第264代ローマ教皇ヨハネ・パウロ二世が逝去した直後から始まる。残念ながら(?)「次期教皇の座を巡って泥沼の権力争いが勃発!」みたいなスリリングな展開は一切ないが、非常に重いテーマを扱いながらもコミカルな描写を挿入することで笑いと感動を与えてくれる、予想外のエンタメ作品に仕上がっていた。
主義は違えどお互い黒歴史を抱えた聖職者たちのスローモーな駆け引き
2005年に第265代ローマ教皇となったベネディクト16世(現在92歳)は、ドイツ出身の超保守派。第二次大戦時にヒトラー・ユーゲントに所属していた過去や、ホロコーストを否定した司教に対する甘い処分などによって猛烈に批判され、しまいには“ナチス”呼ばわりされるなど在任中の8年間に各方面から散々ディスられまくった御仁だ。本作ではA・ホプキンスが彼を演じている。
一方、アルゼンチン出身のラテン系なベルゴリオ枢機卿(後の教皇フランシスコ)は、教義を超えてマイノリティに寄り添うリベラルな改革派として知られている。教皇となり日本を訪れた際には原発反対を訴えたことも記憶に新しいが、大のサッカー好きでABBAやザ・ビートルズを好んで聴くというフランクな人柄でも人気が高い。彼を演じるのはJ・プライスだ。
要するに彼らがタイトルにもなっている“2人の教皇”なわけだが、つまり本作ではベネディクトが老齢を理由に辞任を決意し、フランシスコに「次はお前な」と教皇の座を譲るまでの顛末が描かれている。そう聞くとビタイチ面白くない(教皇は基本的に終身制なので異例の辞任ではあった)のだが、なぜか教皇の座に就くことを拒絶するフランシスコの“過去”を描くパートになると、物語のトーンがガラッと変化。多くの教徒から諸手を挙げて歓迎されそうなフランシスコも、実は過去の行いに大きな後悔を抱えていたことが明かされる。
フランシスコが生まれ育ったアルゼンチンは、1970~1980年代に暗黒の右派軍事政権に支配されていて、多くの左派活動家が命を奪われた“汚い戦争”と呼ばれる悲劇的な歴史を経験している(死者・行方不明者数は述べ3万人)。本作では、フランシスコが軍事政権の上層部に司教の解放を掛け合っていたことを示す回想に多くを割いていて、政権側の殺戮行為に対し「努力が足りなかった」「もっと救えたはず」と自責の念に駆られていることが、彼が教皇就任を拒絶する理由として描かれているのだ。
劇中のセリフは実際の2人の言葉を紡いだもの
にわかには信じられないが、劇中のセリフは過去の書籍やインタビューなどからの引用で構成されているとのことで、正反対の主義を持ちながらもキリスト教らしく“赦し合う”2人の関係性から学ぶことは多い。カトリック教会の神父による児童への性的虐待などなにかとスキャンダルの多い宗教界隈だが、主に欧米諸国における信仰の役割や、ローマ教皇の存在意義などを把握するのに役立つ、カトリック入門としても有用な作品であることは間違いない。
また、A・ホプキンスとJ・プライスがしょうもないつばぜり合いをしたり、面と向かって言い争いしたかと思えば一緒にファストフードを食べたりスポーツ観戦したりする仲睦まじい姿も。2人のおじいちゃん教皇のほっこりシーンもお見逃しなく。
『2人のローマ教皇』はNetflixで独占配信中
『2人のローマ教皇』
カトリック教会における歴史的転換点をまたぐ2人のローマ教皇、ベネディクト16世とフランシスコ。同じ神に仕えながら別々の道を歩む2人の聖職者、相容れないはずの彼らが歩み寄ったとき、ひとつの未来へとつながる扉が開かれる。保守派と進歩派の壁をこえたその友情を描く、実話に基づいた物語。
制作年: | 2019 |
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監督: | |
出演: |
Netflixで独占配信中