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「初めて超裕福な家庭を撮った」階級格差を描いたポン・ジュノ監督、撮影秘話を語る『パラサイト 半地下の家族』

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ライター:#石津文子
「初めて超裕福な家庭を撮った」階級格差を描いたポン・ジュノ監督、撮影秘話を語る『パラサイト 半地下の家族』
ポン・ジュノ監督

全員失業中の一家が、家庭教師をきっかけに超富裕層の豪邸に入り込む……そこからとてつもない展開を見せる『パラサイト 半地下の家族』(2019年)。

主演ソン・ガンホのインタビューに続き、この超弩級の傑作をものにし、カンヌ国際映画祭パルム・ドールをはじめ、ゴールデン・グローブ賞の監督賞候補にも入り、アカデミー賞候補も射程距離となったポン・ジュノ監督のインタビューをお届けする。

『殺人の追憶』(2003年)や『母なる証明』(2009年)など、若くして名作を生み出していた才人が、その灰色の脳細胞の一端を披露してくれた。

ポン・ジュノ監督:第72回カンヌ国際映画祭にて最高賞パルム・ドール受賞

「この映画に本当の悪役はいない。誰もがグレーゾーンにいる」

―経済格差が世界に広がっている今、この映画のインパクトはとてつもないですね。世界の現在を反映していると思います。

でも、この映画の元になるアイディアを考え始めたのは、『スノーピアサー』(2013年)のポスプロをしていた頃なんです。『スノーピアサー』も階級社会との戦いをSFアクションとして描いていましたが、同様のテーマをもっと小さなサイズで、現実的に語ったらどうだろう? と思い、そんな映画を作りたいな、と話したことを覚えています。

でも、あくまでアイディアに過ぎず、すぐに書きはじめたわけではありません。そして最初に考えていたタイトルは「転写」でした。同じ飛行機に乗り合わせた2つの家族の話として、書き始めたんです。でも、そのうち貧しい家族の視点から描くほうがダイナミズムが生まれると思い、どんどん話が変わっていきました。

この映画には、本当の悪役はいません。登場人物の誰もがグレーゾーンにいる。それよりも状況が問題なんです。社会のおそろしいシステムによって、寄生が生まれた。そこで、タイトルを『パラサイト』としました。

『パラサイト 半地下の家族』© 2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED

―豪邸の作りがとても印象的です。

脚本を書いているときから、家の構造や、そこでの人物の動きを考えていました。脚本が完成した時点で、もう僕の中で家の基本構造も決まっていました。家の構造がとても重要で、ある人物がしていることを、別の人物がどう見るのか、見えないのか、ということを考えて作らないといけない。

プロの建築家にもアドバイザーになってもらったんですが、「こんな家はあり得ない!」って言ってましたね(笑)。プロダクション・デザイナーは、僕の意見と建築家の意見を取り入れつつデザインするのは大変だったでしょうね。

『パラサイト 半地下の家族』© 2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED

実は豪邸も半地下の家も、全部セットなんです。ご近所もね。セットじゃないのは、豪邸の前の通りくらいです。この映画の9割が、2つの家の中で起こっています。

『パラサイト 半地下の家族』© 2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED

長男が家庭教師として初めて社長の豪邸にいったとき、あぜんとしますよね。あれは僕自身の経験なんです。大学生のとき家庭教師に行った家が、ものすごい豪邸で。僕の家は普通の中流家庭だったから、驚いたものです。だって2階にはサウナがあったんですよ。家にサウナがあるなんて信じられなかった(笑)。

「ソン・ガンホもクリス・エヴァンスも、僕の映画の主人公はいつも貧乏(笑)」

第72回カンヌ国際映画祭にて最高賞パルム・ドール受賞:ソン・ガンホ(左)ポン・ジュノ監督(右)

―ソン・ガンホといえばあなたの作品の“顔”ですが、パク社長役のイ・ソンギュン(『ヘウォンの恋愛日記』「コーヒープリンス1号店」ほか)は、ホン・サンス監督作品の常連です。あなたの映画では新顔ですね。

彼のこと、どう思いました?

―イ・ソンギュンさんはパク社長役にぴったりでした。

それはよかった(笑)。この映画を撮っている最中に、撮影監督に言われたんです。「あなたの映画で、リッチな人の家を撮るのは初めてだね」って(笑)。僕の映画では、主人公はいつも貧乏なんですよ。ソン・ガンホだけじゃなく、『スノーピアサー』のキャプテン・アメリカ(クリス・エヴァンス)もね。

でも今回、貧しいキム家のソン・ガンホに対して、裕福なパク家の父親はとても重要なキャラで、新鮮な人をキャスティングしたいと思いました。

パク氏は白黒はっきりしない、まさにグレーゾーンにいる人物です。リッチではあるけれど、映画にありがちな欲深い、金満家にはしたくなかった。パク氏はとても洗練されていて、品がよく、都会的な、感じの良い人に見えるようにしたかったんです。たとえそれが上辺だけだったとしても。そこでイ・ソンギュンがぴったりだと思ったんです。彼はとてもいい俳優ですから。

『パラサイト 半地下の家族』© 2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED

―でも貧しいキム家のほうが、裕福なパク家の人々より頭が切れるように見えますよね?

貧乏なキム家の人々は頭も良いし、色々なスキルも持っています。だけど問題は、それを活かす仕事がないこと。手に職があっても、実際には職がないんです。これは韓国だけでなく、いま世界中で問題になっていることです。

社会のシステムがうまく回っているうちは、彼らにもちゃんと仕事があり、まったく問題なかった。ところが一旦、社会システムが綻ぶと、彼らは追い詰められてしまう。

そしてキム一家のように危機的な状況に陥ってしまうわけです。映画の中で、ソン・ガンホが「警備員の仕事にすら大学卒のエリートが500人も応募してくる」と言いますが、これは実際に韓国で記事になっていたことです。経済が一時より少しは持ち直したとはいえ、同じような状況が続いているんですよ。

『パラサイト 半地下の家族』© 2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED

「僕は自分自身を、ジャンル映画の作り手だと認識しているんです」

―カンヌ国際映画祭ではケン・ローチ監督も『家族を想うとき』(2019年)で格差社会を批判しています。あなたは同じテーマを風刺劇として描いたのはなぜでしょう?

もちろんケン・ローチ監督のことは、とても尊敬しています。特に『ケス』(1969年)は僕のオールタイムベストの1つです。

でも僕は自分自身を、ジャンル映画の作り手だと認識しているんです。ジャンル映画、娯楽映画の持つ興奮やハラハラを生み出すことに、とてもやりがいを感じるんですね。

社会問題を観客がそのまま受け取るというよりも、それを風刺やエンターテインメントとして楽しんいるうちに、自然とその問題について考えられるような映画を作りたいと思っています。

『パラサイト』のあるシーンでは、観客が大笑いしつつも「あれ、ここって本当に笑っていいのかな?」と思うような仕掛けにしたつもりです。そこが僕の狙いであり、楽しみなんですよ。

『パラサイト 半地下の家族』© 2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED

―お金持ちの大きな家に赤の他人が入り込んでくるという構造は、キム・ギヨンの名作『下女』(1960年)や、そのリメイクである『ハウスメイド』(2010年)を彷彿とさせる部分がありますが、やはり意識されたのでしょうか?

この映画の準備中、自宅の棚にあった『下女』や、ジョセフ・ロージーの『召使』(1963年)、クロード・シャブロルの『野獣死すべし』(1969年)のDVDを観直しました。

キム・ギヨンは僕にとってメンターです。彼の映画は何度も繰り返し観ていますし、とても影響を受けています。

この『パラサイト』も、『下女』も、“階段映画”と言えますね。映画の中で、階段がとても重要な役目を果たしている。その点でも影響を受けているんです。

海外では『下女』が有名ですが、ぜひ彼の『虫女』(1972年)も観てほしいですね。この映画も家の構造がとても重要なんです」

『パラサイト 半地下の家族』© 2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED

第72回カンヌ国際映画祭にて最高賞パルム・ドール受賞:ポン・ジュノ監督

取材・文:石津文子

『パラサイト 半地下の家族』『下女』はCS映画専門チャンネル ムービプラスで2021年12月放送

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『パラサイト 半地下の家族』

過去に度々事業に失敗、計画性も仕事もないが楽天的な父キム・ギテク。そんな甲斐性なしの夫に強くあたる母チュンスク。大学受験に落ち続け、若さも能力も持て余している息子ギウ。美大を目指すが上手くいかず、予備校に通うお金もない娘ギジョン… しがない内職で日々を繋ぐ彼らは、“ 半地下住宅”で 暮らす貧しい4人家族だ。

“半地下”の家は、暮らしにくい。窓を開ければ、路上で散布される消毒剤が入ってくる。電波が悪い。Wi-Fiも弱い。水圧が低いからトイレが家の一番高い位置に鎮座している。家族全員、ただただ“普通の暮らし”がしたい。「僕の代わりに家庭教師をしないか?」受験経験は豊富だが学歴のないギウは、ある時、エリート大学生の友人から留学中の代打を頼まれる。“受験のプロ”のギウが向かった先は、IT企業の社長パク・ドンイク一家が暮らす高台の大豪邸だった——。

パク一家の心を掴んだギウは、続いて妹のギジョンを家庭教師として紹介する。更に、妹のギジョンはある仕掛けをしていき…“半地下住宅”で暮らすキム一家と、“ 高台の豪邸”で暮らすパク一家。この相反する2つの家族が交差した先に、想像を遥かに超える衝撃の光景が広がっていく——。

制作年: 2019
監督:
出演: