人生の最期を迎える準備、いわゆる“終活”をテーマにした作品は数あれど、2019年12月6日(金)から公開中のロシア映画『私のちいさなお葬式』ほど笑えて泣ける作品はない! と断言したい。本作の主人公エレーナが離れて暮らす息子に向ける笑顔は、観客それぞれの母親への想いを呼び起こすこと間違いなし。映画館で大泣きできるよう、ハンカチ……では足りないのでハンドタオル持参で鑑賞に挑んでほしい、平成最後の年にやってきた傑作ヒューマンドラマだ。
息子を想うがゆえの勇み足……愛と可笑しみに満ちた終活映画!
ベテラン女優マリーナ・ネヨーロワが本作で演じるエレーナ(73歳)は冒頭、医師から何やら難しい病名を伝えられるのだが、どうやら虚血性の心臓病を患っていることが判明したらしい。不整脈になったり心臓の震えによって血流が止まる……つまり心臓のポンプが正常に機能しなくなるという、高齢者に多い症状だ。エレーナも“心停止”と言われてやっと症状を理解し、医師の「いつ起きてもおかしくない」という言葉に「あら、どうしましょ……」といった表情で驚いてみせる。
初っ端から病気の宣告シーンから入るという潔さは本作のトーンを象徴していて、死が迫っているのに“稲妻が落ちた”みたいなショック演出なんかは一切なし。
時代感覚がおかしくなりそうなほどのド田舎が舞台ということで時間経過もまったりしていて、ご近所さんとのやり取りもノンビリしたもの。そんな状況だけに皮肉屋のお隣さんリューダのツッコミの鋭さが光るが、狭いコミュニティならではの閉塞感や絆もナチュラル描かれていて胸に迫る。
多忙な息子オレクは母を心配していないわけではないのだが、5年に1度しか帰らないと揶揄されるほどの仕事人間で、一時帰宅した実家でのガミガミした親子のやり取りは猛烈にやかましい。それでも、いざ会えば小言ばかりなのに何か面倒が起こっても「子どもに余計な心配をかけたくないから」と妙に気を遣うエレーナ(=私たちの母親)の気持ちに想いを馳せると、もう号泣スイッチ・オン、涙腺のダム崩壊は免れない。
荒ぶる母の愛に枯れるほど号泣! 今年の年末年始は帰省して親孝行しよう
小さな町だけに長年教師として勤め上げたエレーナは町民(かつての教え子)たちに愛されていて、かなり勇み足な終活ながら、なんとか協力を得ることに成功。強引な手続きの様子には思わず苦笑してしまうが、皆のささやかな優しさがまた涙を誘い、もう目頭はカピカピ状態だ。
長らく独りで暮らしてきたエレーナは悲壮感こそ感じさせないが、その“前のめり終活”は「都会で仕事に励む息子に面倒をかけたくない」という一心によるものなので、そのいじらしさを想うたびに泣けてくる。ぶ厚い瓶底眼鏡越しに愛おしそうに息子を見つめる大きな眼差しは、今すぐ実家に電話したくなるほどの普遍的な感動を呼び起こす。
ともあれ全体を通してポップな色使いの衣装などはとても可愛らしく、かつミスマッチになることなく、どこかお伽噺のようなムード作りに貢献。さらに、息子や周囲とのディスコミュニケーションが漏れなく笑いどころに繋がっていて、ブティック感覚で棺桶を購入するシーンなどは思わず吹き出してしまう。
もちろんロシア名物(?)のウォッカ泥酔ギャグも強引に盛り込んでいて、随所に徹底したユーモアを感じさせる。ちなみに、冒頭で元教え子に押し付けられる“ある生き物”も意外な伏線として終盤で活かされるのでお楽しみに。
とにかく、その表情ひとつで観客の感情を震わせるエレーナの存在感は見事と言うほかなく、ネヨーロワの演技に涙を奪われるたび「今年の年末年始は1日でも長く実家に帰ろう……」と思わされる、今後折に触れて見返したくなるであろう優しい涙強奪映画であった。
『私のちいさなお葬式』は2019年12月6日(金)よりシネスイッチ銀座ほか全国順次公開
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https://twitter.com/BANGER_JP/status/1202885443303292928
『私のちいさなお葬式』
村にひとつしかない学校で教職をまっとうし、定年後は慎ましい年金暮らしを送っている73歳のエレーナ(マリーナ・ネヨーロワ)が、病院で突然の余命宣告を受けた。5年に1度しか顔を見せないひとり息子オレク(エヴゲーニー・ミローノフ)を心から愛しているエレーナは、都会で仕事に大忙しの彼に迷惑をかけまいとひとりぼっちでお葬式の準備を開始するが……
自分の<お葬式計画>に奮闘するエレーナの笑って泣けるやさしさに包まれる物語!!
制作年: | 2017 |
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監督: | |
出演: |
2019年12月6日(金)よりシネスイッチ銀座ほか全国順次公開