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実在の刑務所で撮影! FBI情報屋の潜入捜査と脱出劇を無機質サウンドで演出『THE INFORMER/三秒間の死角』

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ライター:#森本康治
実在の刑務所で撮影! FBI情報屋の潜入捜査と脱出劇を無機質サウンドで演出『THE INFORMER/三秒間の死角』
『THE INFORMER/三秒間の死角』© Wild Wag films Productions 2018

犯罪映画に登場する「情報屋」というキャラクターは、悲惨な末路を迎えることが多い。刑事や捜査官からコキ使われたり、組織から「裏切り者」「密告者」として始末されたりする姿を、映画の中で観たことがある方も多いのではないかと思う。本作『THE INFORMER/三秒間の死角』(2019年)の主人公ピート・コズローもまた、FBIに裏切られた悲運の情報屋の一人である。

『THE INFORMER/三秒間の死角』© Wild Wag films Productions 2018

情報屋の意地を見よ! FBIに裏切られた男の脱出劇

ピートはイラク戦争に出兵して勲章を授与されたこともある元狙撃兵だが、ストレス障害を煩って退役。妻に絡んできた男をケンカで死なせてしまい、懲役20年の刑を受けて刑務所行きになったという設定。妻と娘との暮らしのため、自由の身と引き換えにFBIの情報屋となり、ポーランド系麻薬組織に潜入して取引の情報を流している。もはや情報屋というより潜入捜査官と言ってもいい仕事ぶりである。

『THE INFORMER/三秒間の死角』© Wild Wag films Productions 2018

潜入捜査官の運命も総じて悲劇的だが、本作のピートもまた然り。潜入中にトラブルが発生してFBIの作戦が中止になり、組織のボスからは「刑務所に戻ってお前が麻薬取引を仕切れ」と命令され刑務所に逆戻り。FBIはニューヨーク市警の介入で事態がマズくなった途端、ピートをあっさりと見捨ててしまう。結果、孤立無援となったピートはポーランド系マフィアとその対立グループ、ニューヨーク市警、刑務所の看守、FBIから命を狙われるという絶望的な状況に陥ってしまう。

『THE INFORMER/三秒間の死角』© Wild Wag films Productions 2018

不憫すぎて泣けてくるのだが、元狙撃兵のピートは冷静な状況判断と鋭い観察力を駆使して、刑務所からの脱出を試みる。本作は「潜入捜査ドラマ」「刑務所スリラー」「脱出サスペンス」という3つの要素が緻密に組み合わさった、秀作クライム・スリラーなのである。

ツウ好みの演技派・個性派俳優が集結!

『THE INFORMER/三秒間の死角』© Wild Wag films Productions 2018

北欧ベストセラー犯罪小説の映画化にあたって、キャストもシブ目の演技派が顔を揃えている。スウェーデン出身のジョエル・キナマンは、抑制の効いた演技で情報屋ピートの苦悩をリアルに体現。顔色ひとつ変えずに「情報屋を切れ」と部下に告げるクライヴ・オーウェン(モンゴメリー役)の冷血漢ぶり、「俺がお前の死刑執行人だ」とピートに凄むコモン(グレンズ役)の威圧感も印象的だ。

『THE INFORMER/三秒間の死角』© Wild Wag films Productions 2018

良心の呵責に苛まれるウィルコックス捜査官役のロザムンド・パイク、薄幸さの中に芯の強さを感じさせるピートの妻ソフィア役のアナ・デ・アルマスの演技にも心を打たれる。また、ポーランド系麻薬組織のボス“将軍”役のユージン・リピンスキ、悪辣な看守役のサム・スプルエルら個性派俳優のアクの強い演技も要チェックだ。

『THE INFORMER/三秒間の死角』© Wild Wag films Productions 2018

気鋭の兄弟作曲家がこだわった「刑務所の中」をイメージさせる音作り

本作の音楽を担当したのは、『グリーンルーム』(2015年)の音響系スコアで注目を集めた兄弟作曲家、ブルック・ブレアとウィル・ブレア。『グリーンルーム』はライブハウス、本作は刑務所ということで、今回も限定された空間で繰り広げられる脱出劇をスリリングな音楽で盛り上げている。

『THE INFORMER/三秒間の死角』© Wild Wag films Productions 2018

本作の音楽では、ストリングスとピアノを用いたスコアもいくつかあるものの、重低音と打楽器の音を重ねて作ったサウンドデザイン系のスコアの割合が大きい。筆者がサウンドトラックアルバムのライナーノーツの中で行ったウィル・ブレアへのインタビューで、彼が音楽のコンセプトについて語っている部分があるので一部抜粋させて頂く。

「アンドレア(・ディ・ステファノ監督)はこの映画を実際の刑務所で撮影したから、この巨大な施設にいることで得られる多くの音と感情を映画の中で共有している。(中略)僕たちは硬く、冷たく、孤独で恐ろしい場所にふさわしい音を作り出したいと考えた」

……というわけで、フィードバック・サウンドを効果的に用いた『グリーンルーム』の時と同じように、本作でもブレア兄弟は工夫を凝らして「刑務所の中を連想させる音」を創作している。しかも全てシンセサイザーに頼ってしまうのではなく、様々な楽器や道具を駆使して“刑務所のような音”を作り出し、丸1日かけてレコーディングしたという凝りようである。そのユニークな曲作りの過程については、是非サントラ盤の差し込み解説書にてご確認頂きたい。

『THE INFORMER/三秒間の死角』© Wild Wag films Productions 2018

作曲家の意図を理解した上で本作の音楽を聴いて頂くと、単調で無機質に聞こえるサウンドの中に隠された“仕掛け”に気付く部分もいろいろ出てくるのではないかと思う。ブレア・ブラザーズ、今後要注目の個性派作曲家である。

『THE INFORMER/三秒間の死角』オリジナル・サウンドトラック
音楽:ブルック・ブレア&ウィル・ブレア
輸入・販売元:Rambling RECORDS Inc.
品番:RBCP-7413

文:森本康治

『THE INFORMER/三秒間の死角』は2019年11月29日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー

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『THE INFORMER/三秒間の死角』

FBI、マフィア、NY市警、刑務所の看守──
自分を取り巻くすべての組織から命を狙われるFBIの情報屋
絶体絶命の男が脱出を懸けた〈三秒間の死角〉とは?

制作年: 2019
監督:
音楽: