2017年に公開され、日本でも大ヒットを記録したミュージック・ロマンス・クライム・アクション『ベイビー・ドライバー』の監督といえば? そう、イギリス出身のエドガー・ライトだ。
That is a wrap on main unit photography on my next feature film, 'Last Night in Soho’. Can't wait for you all to see @lastnightinsoho on a big screen near you, September 25th, 2020... pic.twitter.com/JTvSB7SEDB
— edgarwright (@edgarwright) August 30, 2019
いまや最も期待される監督の一人となったエドガーだが、彼が世界的に注目されるきっかけとなった作品が英国産ゾンビ・コメディ『ショーン・オブ・ザ・デッド』(2004年)。ということで、エドガー監督作品は『ベイビー・ドライバー』しか観たことがないという映画ファンのために、今さらながら『ショーン・オブ・ザ・デッド』の見どころをざっくり紹介したい。
ソンビ、ロマンス、コメディ……映画に必要なものがすべて詰まった名作!
本作のメイン登場人物はサイモン・ペッグ演じる冴えない家電販売員ショーンと、ニック・フロスト演じる悪友でプッシャーのエド。ある日突然、街中で巻き起こったゾンビ・パニックを恋人や友人、家族とともにサバイブすることになり……という内容で、いわゆるゾンビ映画のセオリーを踏襲している。
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それでは一体なぜ本作がゾンビ・コメディとして高い評価を得ているのか? それは、ゾンビ・パニックものに笑いとアクションだけでなく、ボンクラ野郎の友情=バディもの、恋人の気持ちを取り戻さんとするラブロマンス、家族への愛情、そしてゾンビ映画の先達へのリスペクトと気の利いたオマージュが、ふんだんに盛り込まれているからだ。
ジョージ・A・ロメロらホラーの名匠たちに捧げる小ネタが満載!
『ショーン~』というタイトルはもちろん、本作を観てまず気がつくのは、やはりゾンビ映画の大家ジョージ・A・ロメロ作品からの引用。ゾンビたちにノロノロ動きを徹底させているのもオリジネイターであるロメロへの敬意の表れだろうし、ショーンが働く店<Foree Electric>は同作の出演者ケン・フォリーにちなんでいると思われる。ショーンの母、バーバラの名も『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド/ゾンビの誕生 』(1968年)からの引用で、エンドクレジットでは『ゾンビ』(1978年)でお馴染みハーバート・チャペルの「The Gonk」まで流れる徹底ぶりだ。
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生きたまま内蔵を貪り食われる衝撃シーンは『死霊のえじき』(1985年)の完コピだし、同作に登場する知性を残したゾンビ、バブ(超かわいい)の名前をピザ屋に使ったりと、とにかく細部まで小ネタがびっしり。
ロメロ監督のゾンビ映画は現代社会の映し鏡になっていたが、もちろん本作も現代社会への風刺が盛り込まれていて、ゾンビ化する前から街の人々は無気力だし、ニュース番組(社会情勢)や他者への関心のなさを、人々がギリギリまでゾンビ化に気づかない原因として描いている。そんなリスペクトはロメロ監督にも伝わったようで、自身の『ランド・オブ・ザ・デッド』(2005年)にペッグとエドガーをゾンビ役で出演させたほどだ。
当然ロメロだけでなく、ジョン・ランディスやルチオ・フルチなどホラーの名匠たちの名前もスーパーやレストランの店名として使用されているので、目と耳を凝らして確認してほしい。ちなみに、ショーンがバスルームで薬棚の鏡戸を閉めるシーンが印象的に描かれるが、ランディス監督作『狼男アメリカン』(1981年)に画角も全く同じシーンがあり、あまりにも細かい再現に驚かされる。
ショーンがエドに「ゾンビって呼ぶなよ」と言うシーンがあるが、ダニー・ボイルが監督作『28日後…』(2002年)について「これはゾンビ映画ではない」と言ったことに対する皮肉、もといメッセージとも受け取れるし、本作がゾンビを走らせないことにも繋がってくる。
そして、クライマックスのシーンでショーンが負傷した頭部にハチマキを締める姿、これは『ディア・ハンター』(1978年)のニック(クリストファー・ウォーケン)のロシアンルーレットのシーンを意識しているはずだ。
エドガー監督ならではの楽曲チョイスや後続ゾンビ作品への影響にも注目!
『ベイビー・ドライバー』で音楽オタクぶりを発揮したエドガー監督は、本作でもシカゴの「愛ある別れ」をはじめ、使用楽曲の歌詞とシーンの内容をシンクロさせている。クイーンの「ドント・ストップ・ミー・ナウ」が流れるシーンでは映像と動きをシンクロさせるが、こちらも『ベイビー・ドライバー』で印象的に使われていた手法。正直ちょっとダサい演出なのだが、そもそも本作では特にカッコいいシーンでもないので、そんなに好きなら自由にやってくれという気持ちである(エンドクレジットでもクイーン曲が流れる)。
本作から波及した小ネタとしては、エドが劇中で“I GOT WOOD”と書かれた謎Tシャツを着ているのだが、人気ドラマ『ウォーキング・デッド』(2010年~)のシーズン5エピソード12の冒頭でヘッドショットされるゾンビが、同じTシャツを着ているらしい(同作のブルーレイのコメンタリーで特殊効果などを務めるグレッグ・ニコテロが言及している)。また、ショーン一行が自分たちと瓜二つのパーティと遭遇する(マーティン・フリーマンも登場!)という設定は、同じく大ヒットしたゾンビ・コメディの10年ぶりの続編『ゾンビランド:ダブルタップ』で踏襲されている模様だ。
エドガー監督は言わずもがな、いまやペッグは『M:i:Ⅲ』(2006年)以降『ミッション』シリーズのレギュラー、ベンジー役など人気俳優となった。ゾンビ映画なのでエグめのシーンもないことはないが、ホラーが苦手な人でも鑑賞できるレベルなので、エドガー監督&ペッグ&フロストの出世作を安心して楽しんでほしい。なお、コールドプレイのメンバーがカメオ出演していたりするので、最後の最後、隅々までお見逃しなく!!
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『ショーン・オブ・ザ・デッド』
ロンドンの家電量販店に勤める冴えない男ショーンは、親友エドと自堕落な毎日を過ごしていた。長年の恋人リズにも愛想を尽かされた彼は、生活を変える決意を固める。だが翌朝、街中では蘇った死者があふれ返るまさかの事態に…。人間が次々と犠牲になる中、ショーンはリズを救うため奮起する。
制作年: | 2004 |
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監督: | |
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