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危険な“アジア最大級のスラム街”で撮影を慣行!インド発ヒップホップ映画『ガリーボーイ』監督と脚本家が語る【後編】

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ライター:#松岡環
危険な“アジア最大級のスラム街”で撮影を慣行!インド発ヒップホップ映画『ガリーボーイ』監督と脚本家が語る【後編】
『ガリーボーイ』

主演の2人について、ゾーヤー・アクタル監督と共同脚本を務めたリーマー・カーグティに話を聞いた。『ガリーボーイ』の主演は、『パドマーワト 女神の誕生』(2018年)で強烈な印象を残したランヴィール・シンと、デビュー作『スチューデント・オブ・ザ・イヤー 狙え!No.1!!』(2012年)が日本でも2014年に公開されたアーリヤー・バットだ。

ラップと出会い、スラムから抜け出した実在のヒップホップ・アーティストの半生を描いた『ガリーボーイ』(2018年)。本作の主演はランヴィール・シンは、これまで演じたことのない役柄に挑戦し、劇中のラップをすべて自分で歌うという入れ込みぶり。またアーリヤー・バットは、難役とも言える一風変わった女性を演じて強い印象を残し、この数年間でトップ女優となった貫禄を見せつけている。

『ガリーボーイ』 ゾーヤー・アクタル監督(左)、ランヴィール・シン(右)

「アジア最大級のスラムでの撮影はとても新鮮でしたね」

―今、最も勢いと人気のある俳優、ランヴィール・シンを主役に選んだ理由を教えて下さい。彼にスラムの住人を演じてもらうにあたって演技指導(例えば胸を張って堂々と歩かないように、目線を落として、など)はしましたか?

ゾーヤ―監督:彼はと~っても上手な俳優ですよね。そして、非常に繊細な人でもあるんです。脚本の読み合わせやワークショップとかで見ていると、何かを強く出すよりも、内にため込むことができる俳優だなと思います。ムラドの役に関しては、何を要求されているのかをよく理解していて、内省的な役だからと物静かに演じてくれたわけです。そういう優れた俳優と一緒に仕事をするのは、本当に楽でしたね。

『ガリーボーイ』

―サフィナ役のアーリヤー・バットは、エキセントリックで非常にチャーミングです。イスラム教徒の女性らしくいつもヘジャブ(ヒジャブ)を被っているのに、親にはウソをつくし、カッとなると他人に暴力も振るう。そして、一途にムラドを愛している。この強烈なキャラクターは以前、別の脚本で考えられていたとのことですが、誰か実在のモデルがいたのでしょうか?

リーマー:特にモデルにした人はいなかったんですが、その役について以前考えていたのは、ある特定の条件下で制約を受けていて、自分の思うように生きるためにはウソをついたり、小細工をしたりする、というキャラクターでした。その脚本は日の目を見なかったんですが、あまりにも特異な人物ということで、ほっぽっておくしかなかったんですよ。で、この映画の脚本を書いている時、ゾーヤー監督が「このキャラクター、今回の恋人役に使ってみようよ」と言ったので試したところ、ピッタリきた、というわけです。考えてみれば、サフィナというキャラクターは『ガリーボーイ』に存在するためにあえてそうなった、なるべくしてこうなったのかも知れませんね(笑)。

『ガリーボーイ』

―撮影中に印象に残ったエピソードはありますか?

ゾーヤ―監督:アジア最大と言われるダラヴィ・スラムでの撮影だし、大スターが2人も出演するということで、撮影に入る前にプロデューサーたちとセキュリティの問題をどうしたらいいか話し合いました。それで初日には、警備員をいっぱい引き連れて行ってみたわけです。ところが、ダラヴィの人たちは誰も寄って来ない(笑)。みんな、関心がなかったんです(笑)。つまり、そんなことにかまっている暇はないというか、皆さんそれぞれに生活することで忙しかったんですね。その後、私たちが撮影する時は、私たちのことをとても尊重してくれて、撮影中でもドアを開けたままでいてくれました。俳優たちは好きなように動き回ることができたし、我々も自由に撮ることができたんです。これはものすごく新鮮な、面白い経験でしたね。

『ガリーボーイ』

「伝えられるべきストーリーはたくさんあるし、女性の目線によって世の中の見方も変わってくる」

―監督は現在、ボリウッドのメインストリームで活躍する女性監督としては、トップの存在ではないかと思います。リーマーさんも映画監督として活躍されていらっしゃいますが、女性監督をもっと増やさないと、というようなことは意識してらっしゃいますか?

ゾーヤ―監督:毎年、女性監督の数は増えていますし、商業映画界でいい作品を撮って成功してもいる、ということは言っておきたいですね。いまはまだ女性監督の数は男性監督よりも少ないですけれど、そのうちバランスが取れる数までいくと思います。というのは、まだまだ伝えられるべきストーリーはたくさんあるし、やはり女性の目線によって、世の中の見方は変わってくると思うんです。私もプロデューサーという形で、女性監督がストーリーを伝えるお手伝いをしたいと思っています。

『ガリーボーイ』 ゾーヤー・アクタル監督

―ゾーヤー監督は単独監督作品のほか、オムニバス映画を2本(アヌラーグ・カシャプ監督やカラン・ジョーハル監督、ディバーカル・バネルジー監督と『ボンベイ・トーキーズ』[2013年]、『慕情のアンソロジー』[2018年])制作していますね。

ゾーヤ―監督:『ボンベイ・トーキーズ』は、インド映画100年記念作品ということでプロデューサーが声をかけて下さったんですが、他の3人がすでに友人と言うこともあって、それぞれが敬意を払い、助け合っているということで、私もぜひ参加したいと思いました。『慕情のアンソロジー』はラブストーリーで、この2本はNetflixでも観られます。続く『ゴースト・ストーリーズ』という作品を撮り終えたばかりですが、こんな風に何年かに一度、自分の撮りたい作品を撮って、友人と一緒に何かできるのであればとてもいい機会だと思いますね。

『ガリーボーイ』カルキ・ケクラン(左)、ゾーヤー・アクタル監督(中央)、ランヴィール・シン(右)

―『ガリーボーイ』を日本の観客にどう見てもらいたいか、観客の皆さんに一言お願いします。

ゾーヤ―監督:私からどうこう言える立場ではないのですが、ぜひ、インドのムンバイについて、知らなかったことを発見してほしいですね。文化的には違う部分があると思いますが、人間性や人々の物語、経験などは共通なので、そこに注目してもらいたいな、と思います。

リーマー:私は『ガリーボーイ』が日本で公開されるというので、すごく興奮しています。ぜひ映画を見に来ていただき、楽しんで下さることを願っています。ありがとう!

『ガリーボーイ』ゾーヤー・アクタル監督、共同脚本家リーマー・カーグティー

取材・文:松岡環

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『ガリーボーイ』

想像の範囲内だった人生から、誰も想像できない人生へ―インドのスラム街で生まれ育った“ガリーボーイ(路地裏の青年)”。青年の魂のラップが世界中に感動を呼び起こす―2019年インド世界興収2位!観る者の心震わすサクセスストーリー!

制作年: 2018
監督:
脚本:
出演: