「奇跡の救出劇」と呼ばれた“サンダーボルト作戦”に新説を盛り込み4度目の映像化!
1976年の夏、イスラエル人が多数乗客していたエールフランス139便が、<パレスチナ解放人民戦線・外部司令部(PFLP-EO)>と、パレスチナの大義に同調するドイツ左派の過激グループ<革命細胞(RZ)>からなる計4名のテロリストによりハイジャックされ、ウガンダのエンテベ空港へ向かった。
犯人たちの要求は500万ドルと、世界各地に収監された50人以上の親パレスチナ過激派の解放だ。7日間にわたる駆け引きの末、イスラエル政府は無謀とも言える人質奪還計画(通称:サンダーボルト作戦)を決行。テロリスト全員の死亡、そして人質から3名の犠牲者を出しながらも102名の命を救出することに成功する。
「奇跡の救出劇」と称されたこの作戦は、これまでに過去3度も映画化され、イスラエル・パレスチナ問題を語る上でも重要な出来事として現在まで語り継がれてきた。そして事件から40年以上が経過した2019年、ブラジルの鬼才ジョゼ・パヂーリャ監督の手によって、新説を盛り込んだ映画『エンテベ空港の7日間』として公開されることとなった。
社会に怒り続けるジョゼ・パヂーリャが描く、イスラエル・パレスチナ問題
メガホンを執るジョゼ・パヂーリャは、ブラジルで大ヒットを記録した『エリート・スクワッド』(2007年)『エリート・スクワッド ブラジル特殊部隊BOPE』(2010年)や、リブート版『ロボコップ』(2014年)を手がけてきた監督。近年では、実話を元に巨大麻薬組織と捜査官の熾烈な闘いを描くNetflixオリジナルシリーズ『ナルコス』でも監督を務めている。
『エリート・スクワッド』シリーズではブラジル警察や政府を痛烈に批判し、ハリウッド映画『ロボコップ』でもアメリカ社会への皮肉を込めるなど、ポリティカル色の強い作品を得意とするパジーリャだが、今回40年以上前のハイジャック事件に注目した理由について、この事件のテロリストたちが人質に対して柔和で人道的な姿勢を持っていたことを挙げている。その事実として、犯人の1人がサンダーボルト作戦が起きた時、人質を殺すのではなく、逆にイスラエル国防軍の攻撃から人質の命を守ろうとしたという新事実も盛り込んでいる。
本作では、テロリストを完全な悪、救出劇に成功したイスラエル政府を善として捉えるのではなく、中立的な立場からテロリストが抱える心の葛藤や、イスラエルの官僚たちの政治的駆け引きを描いているのが印象的だ。問題解決の糸口が見つけられず複雑化し続けるイスラエル・パレスチナ問題において、この客観的な眼差しは何よりも価値があるだろう。監督の冷静な視点を通して鑑賞することで、観客は善悪二元論の古い先入観を捨て、新たな見方・考え方からテロリズムや武力闘争の本質に向き合うことができるはずだ。
メタファーとしてのダンスシーン、名キャストが繰り広げる迫力の演技合戦
本作では、イスラエル人振付師オハッド・ナハリンの手がけた演目「エハッド・ミ・ヨデア」を、バットシェバ舞踊団が踊るシーンが全編を通して登場する点も見どころだ。このダンスは、ユダヤ教の超正統派の衣装を着た踊り手たち(イスラエル人)が、苦悩に苛まれながら徐々に衣装を脱ぎ捨てていく様子を表しており、ダンサーたちの一糸乱れぬシンクロした踊りと心に響く迫力の音楽に、多くの人が魅了されるだろう。
そして、このダンスが暗示するメッセージこそが本作で監督が伝えたかった想いであり、このメタファーを紐解くとき、本作をより深く理解することができるはず。気になるその意味はネタバレが過ぎるので割愛するが、劇場パンフレットやインターネットで知ることができるのでぜひチェックしてほしい。
本作は、「テロリスト vs. 人質&イスラエル政府」の手に汗握る心理戦や、先の読めないスリリングな展開など、ポリティカルな視点だけでなくエンターテインメント要素も盛り込むことで、終始観客を飽きさせない107分間を完成させた。
そんな本作に華を添えるのが、ドイツ人テロリストのヴィルフリード・ボーゼを演じたダニエル・ブリュールや、同じくドイツ人の女性テロリスト、ブリギッテ・クールマンを演じたロザムンド・パイク、イスラエル首相役のリオル・アシュケナージ、イスラエル国防長官役のエディ・マーサンといった名優たちの熱演だ。
特に、テロリストとして理想と現実の狭間で苦悩するボーゼを見事に演じ切ったダニエルと、女性の持つ強さと弱さの二面性を繊細に表現して見せたロザムンドの演技合戦は圧巻。彼らの迫真の演技は、鑑賞後も深い余韻を残すだろう。
なお、本作は取り扱うテーマが複雑なだけに、ぜひ事前に「イスラエル・パレスチナ問題」について調べてから観ることをオススメしたい。その上でパヂーリャ監督ならではの視点を通して本作を鑑賞すると、同問題への新たな理解が生まれるはずだ。
『エンテベ空港の7日間』は2019年10月4日(金)より全国ロードショー
『エンテベ空港の7日間』
43年前の夏、イスラエル人が多数乗るエールフランス139便がハイジャックされ、ウガンダのエンテベ空港へ向かった。そして7日後、イスラエル特殊部隊が<サンダーボルト作戦>を遂行。数名の犠牲者を出したものの、102名の人質が帰還を果たし、稀にみる成功を収めた。衝撃的な事件の幕開けから劇的な幕切れまでが世界を驚愕させ、『エンテベの勝利』(1976年)、『特攻サンダーボルト作戦』(1976年)、『サンダーボルト救出作戦』(1977年)とハリウッドなどが競って映画化した奇跡の救出劇がいま、新たな視点でスクリーンに甦る。
制作年: | 2018 |
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監督: | |
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2019年10月4日(金)より全国ロードショー