政権による言論弾圧、迎合し沈黙したメディア
今年は『タクシー運転手 約束は海を越えて』『1987、ある闘いの真実』(共に2017)という韓国発の実録映画が日本でも大ヒットを記録した。どちらも軍事政権から民主化を勝ち取った激動の80年代韓国を描いたアツい作品だが、絶賛公開中の『共犯者たち』は、00年代以降の韓国を舞台にしたガチンコ・ドキュメンタリー映画だ。
すべてはノ・ムヒョンからイ・ミョンバク政権へと代わった2008年に始まった。大統領の就任早々、各メディアによって内閣の検証報道が行われ、複数の閣僚が不正によって辞任に追い込まれる。新生内閣にとっては恥ずべきドタバタを暴かれてしまったわけだが、当時ミョンバクの最側近だった放送通信委員会の初代局長チェ・シジュンは、ドラマ「冬のソナタ」でもお馴染みのテレビ局<KBS>の社長に圧力をかけて辞任を要求、さらに背任容疑で逮捕したのである。
当然ながら社員の中には社長の解任に反対する者が多かったが、そこになぜか警察が介入したため激しいもみ合いになり、局側に負傷者が出る事態に発展。政府に睨まれたKBS理事会はソッコーでヒヨってしまい、就任した新社長は手始めに政権に批判的な番組を次々と強制終了させる。これは言うまでもなくメディアに対するあからさまな政治介入だ。
その後、ほか報道各局も次々と“占領”され、政府の息のかかった人物が上層部に就任。労働組合によるストライキや抗議活動、BSE(狂牛病)報道に端を発した“ろうそく集会”にも多くの国民が参加したが、抵抗むなしく気骨ある報道人たちが次々と更迭・不当解雇され、この報道弾圧は悪名高いパク・クネ政権へと継承されてしまう。
そうした結果起こったのが、高校生ら約300人が犠牲となった2014年のセウォル号沈没事故における世紀の誤報であり、国家の基盤を揺るがした2016年の“チェ・スンシル ゲート事件”の隠蔽だ。不都合な真実を隠蔽したい政府の詭弁に翻弄された遺族、そして国家元首に裏切られた国民の動揺・怒りは計り知れない。
歴史を動かしたのは保守政権に「NO」を突きつけた民衆
本作の監督チェ・スンホは、MBCの元番組プロデューサーの一人だ。局を不当解雇された後、一般市民からの会費によって運営される独立メディア<ニュース打破>を立ち上げ、何年も調査報道を続けてきた。その甲斐あってクネ政権は倒れ、2017年にはリベラル派として知られるムン・ジェインが大統領に就任。本作はその数ヶ月後に韓国で公開され、大規模なストライキの結果、スンホ氏がMBCに社長として返り咲いたというからスゴい!
では日本はどうだろうか? いわゆるモリカケ問題をはじめ官僚たちの不祥事など現政権の不正が相次いでいるだけに、真実を追求しようとしないメディアの腐敗は他人事ではないだろう。実際、疑惑まみれの政権に斬り込む報道は皆無に等しいし、そもそも日本でメディア側のストライキなんて聞いたことすらない。レイプ事件の容疑者である報道人を身内(癒着した政権)が庇うなど赤っ恥もいいところだ。
保守政権下で起こった不祥事ということで日本の現状とダブる部分も多いが、韓国は闇の独裁政権時代を経て成長し、国家の恥部を糾弾する姿勢を得た。権力の横暴に対し涙ながらに声をあげる記者の姿は日本では見られないものだし、とにかく無関心を決め込む日本のほうが事態は深刻と言えるだろう。
隣人・韓国の進歩的な報道姿勢を突きつけられる『共犯者たち』は、メディア関係者だけでなくすべての日本人が今こそ観るべきドキュメンタリー作品だ。
『共犯者たち』『スパイネーション/自白』は12月1日よりポレポレ東中野にて2作品同時公開 ほか全国で順次公開予定