「僕たち二人とも偏りすぎちゃってて……」
まず「東京コミコン」の感想を尋ねられると、「パニッシャーの格好してる人とかいて、普通にテロリストじゃないですか。怖っ!? と思って。物騒な人が多くてときめきます(力夫)」「初めてなんですけど、人の多さと、やっぱりコスプレがスゴいですね(河村)」と、呼ばれなければおそらく来ないであろうお二人らしいコメントが。
このトークイベントが初対面だという河村氏と力夫氏。親交を深めるべく一緒に会場をブラついたそうで、お互いにビビッときたのは『2001年宇宙の旅』のディスカバリー号(1/144 プラモデル)とのこと。税抜き価格130万円というスケールもお値段もビッグな逸品には、ともに「あれはスゴかったですね」と感嘆した様子だ。
司会者に「今回は“ちょっと偏った映画トーク”ということですが」と振られた力夫氏は、「あの、僕ら偏りすぎちゃってて、この場で話せるレベルじゃなかったっていうことが判明しちゃって……」と、想定外の状況を壇上で報告。「二人とも、いまだに日本でDVD化されてないような、誰も観られない作品とかが好きだったりしたので」と、気まずそうに明かした。
河村氏が映画関連のデザインを手がけるようになったきっかけとは?
そんな中でも比較的観やすいであろう作品として、河村氏は「ジョン・ウォーターズとか、ハーシェル・ゴードン・ルイスとか」と挙げてくれたものの、「本当に一番好きなのはレイ・デニス・ステックラー」と、やはりマニアックすぎる嗜好を吐露。さすがに日本ではDVDもリリースされていないため、「(ステックラー作品は)ホントの自主映画の走りというか。自分の身内だけで作って出演もして、音楽まで作っちゃうような映画なんですけど」と、ざっくり説明してくれた。
そんなステックラー作品の中でも河村氏が好きなのは、『ラット・フィンク・ア・ブー・ブー(Rat Pfink a Boo Boo:原題)』(1966年)。唯一コミコンと共通点がなくもない作品(かも)ということで「スパイダーマンとかバットマンの……パチもん?(笑)」と内容を紹介してくれたが、いわゆる悪趣味映画と呼ばれる方面の愛好家ということが判明した。
申し訳なさげに嗜好を披露した河村氏に対し、「映画好きとして“偏ってるなぁ”と思う瞬間は?」と聞かれた力夫氏は、映画を見る上でいちばん大事なポイントとして「知らない景色を見せてくれること」と、意外やいい感じの方向にトークを展開。さらに「自分のいる世界とは真逆の、よく分からない世界を見せてくれる映画が好き」と言いながら、着用していた『小人の饗宴』(ヴェルナー・ヘルツォーク監督:1970年)のTシャツを見せる。「日常では絶対に見れない世界が好きなんです」とまとめた。
近年は映画DVDのパッケージデザインなども手がける河村氏に、そのきっかけを尋ねると「00年代前半に<トラッシュ・マウンテン・ビデオ>という、それまで日本じゃ絶対にDVD化されなかったであろう、いったい誰が観るんだ? っていうような……」と、またしてもマニアックなネタを投下。カルチャー誌<TRASH-UP!!>の前身であり、主に70年代前後のZ級作品を扱っていたこの発掘系レーベルについては「9割はクソつまんない映画」とお二人が口を揃える時点で推して知るべしだが、いわく「どこかしらに輝くシーンがある映画」を計80本ほどリリースしたという。
そんな映画だけに、パッケージを作るための“素材”が画面キャプチャくらいしかなかったそうで、あるときレーベル関係者から渡された素材は70~80年代のエロ本に掲載された映画の記事だったというから驚き。映画自体の情報もほとんどなかったらしく、最初に手掛けた作品に至っては5センチ角のモノクロ写真3枚くらいをスキャンしてコラージュしたんだとか。とはいえ、そんな<トラッシュ~>の立ち上げに関わったことが現在の河村氏の多彩な活動につながったと考えると、こういった映画の存在意義は計り知れない。
いっぽう<BANGER!!!>でも数々のコラムを執筆している力夫氏は、「僕は普段<映画秘宝>という雑誌で編集やライターをやってるんですが、なるべく皆さんが知らない情報とかを盛り込みたくて」と自身のスタンスを明かす。実際<BANGER!!!>でも、絶賛公開中の『ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ』のレビュー記事と同時に“麻薬カルテルもの”というくくりの記事も手がけ、様々な作品解説をまじえて麻薬カルテルを紹介しつつ、その楽しみどころを力夫氏ならではのテイストでレクチャーしてくれている。
「ビジュアルに騙されて観て、つまらなくてもイラっとしない広い心」
ここで“偏った映画好き”に向けて「良い映画の見分け方/観る映画を決めるきっかけ」を教えてください、と聞かれたお二人。まず力夫氏は「僕は逆に、つまらなそうなやつを観ます。ガンガン宣伝してる大作映画は当たり前に観るけど、それはもう情報はいらない。逆に『なにこれ?』みたいなやつを積極的に観るようにしてます」と、仕事柄もあってか“如何物食い”的な鑑賞スタイルだという。
「僕はそれのビジュアル版ですね」という河村氏は「いわゆる作り込まれたジャケットより、騙そうとしてるジャケット。間違いなくつまんないんだろうなって分かるんですけど、内容を補うために必死こいて、頑張ってジャケットを作ってるのがおもいっきり出ちゃってる感じの作品を優先的に観ます」と、これまた特殊なチョイス基準を解説。
これに力夫氏は「すごい分かります。<BANGER!!!>でも書いたんですが、いま公開中の『マンディ 地獄のロード・ウォリアー』は日本の配給会社さんが、なんとかヒットさせようとして“地獄のロード・ウォリアー”って(サブタイトルを)つけたと思うんですけど、僕はこの“苦肉の策”感が好きで。そういうところを愛してて、観ちゃいますね」と、話題の最新作を例に出しつつ惹きつけられる要素について語る。
河村氏も「日本特有のアレですよね、大げさなサブタイトルをつけちゃったりするのは。内容とほぼ関係なかったり。それで騙されたとしてもイラっとしない、広い心で観ていくと、色々と掘れていくんじゃないかと(笑)」とのことで、やはり偏った嗜好に基づく映画鑑賞には一定の犠牲が伴うようだ。
さらに「今年観た映画で印象に残っている作品は?」と振られるも、多忙と加齢のせいか「なに観たっけ……?」と記憶が彼方へ消えてしまっている様子のお二人。河村氏は「最近飛行機の中で観た『レディ・プレイヤー1』くらいしか思い出せない(笑)」と苦笑しつつも、「でもなんか、やりたかったことは分かるなあっていう、原点回帰というか。色々やってきたけど、この人(スティーヴン・スピルバーグ)の頭の中はずーっと子どものままなんだなって再確認する映画だった」と、意外な大作映画について回想。
力夫氏にいたっては「来年公開の映画でもいいですか?」と前提をぶっちぎりつつ、「『君の名前で僕を呼んで』の監督(ルカ・グァダニーノ)が、ダリオ・アルジェントの『サスペリア』のリメイク版を撮ったんです。アルジェント監督が撮った『サスペリア』は視覚の暴力、ショッキングなビジュアルをズラッと並べていて、そこまで意味はないんですけど。それがリメイク版では真逆の作りになってました。オリジナルにあったギラッギラの色使いが一切なく、全部トーンを落としてて。正直、画的には貧乏くさいんですけど、ただオリジナル版にあった“魔女”とか“ダンス学校”っていう要素は全部あるんです。だから観ててすごい不思議で」と、予想外の内容に魅了されたようだ。
ここで時間切れとなり、結果的には濃厚な内容となったトークは終了。「東京コミコン」参加者の熱量に圧倒された様子の河村氏と力夫氏だが、初対面ながら共通点も多かったようで、お話が尽きない様子だった。今後のお二人の活躍にぜひ注目していただきつつ、今回のマニアックなトークが偏った映画鑑賞のヒントになれば幸いだ。