ギャングや悪の科学者よりも怖いサイコパス
『スーサイド・スクワッド』にはバットマンの宿敵であるヴィラン、ジョーカーが登場します。ジョーカーはバットマンのみならずアメコミ界を代表するスーパーヴィラン(悪党)です。
ジョーカーは1940年、バットマンが独立したコミック誌になった「Batman #1」でデビューしました。このコミックには2編、ジョーカーがらみのエピソードが収録されているので、ジョーカー推しだったことがよく分かります。
のっけから人を毒殺し、犠牲者はその毒で笑った顔のまま死ぬ、という恐ろしいシーンがあります。当時の資料を見ると、バットマンにとにかく対抗しうるすごいキャラを作りたかった、ということです。バットマンは黒ベースのデザインで無表情ですから、真逆の白い顔で笑っている、わけです。
ジョーカーは犯罪を「この世界における究極のジョーク」と考えており、究極の愉快犯、サイコパスです。ある意味、裏社会を仕切ろうとするギャングや世界征服を考える悪の科学者よりも怖い。楽しむために残虐かつ予想不可能な犯罪を繰り広げるわけです。
僕は60年代のTVドラマシリーズでジョーカーを見ました。演じるのはシーザー・ロメロという役者さんです。このドラマ自体がポップな作品だったので、ジョーカーに対してもコミカルな印象があったのですが、そのイメージをガラっと変えたのが1989年のティム・バートン版『バットマン』のジャック・ニコルソンが演じたジョーカーです。当時のコメントを読むと「ホラー映画『エルム街の悪夢』のフレディ級に怖いキャラを目指す」と言っていたとおり、サイコな怪人として登場しました。
この映画ではバットマンとジョーカーの誕生に因果関係がある、とハッキリ描写しています。実は、コミックではジョーカーのオリジン(誕生秘話)について明解になったことはないのですが、その一方バットマンとジョーカーの関係は“コインの表と裏”的に存在すると描かれることが多いです。ティム・バートン版は、ジョーカーのオリジンはバットマンのせい、バットマンが生まれたのはジョーカーが原因と明言したわけです。
ニコルソン、レジャー、レト、そしてホアキン・フェニックス
ジャック・ニコルソンのジョーカーが凄すぎたので、これを超えるインパクトは難しいと思ったのですが。2008年の『ダークナイト』でヒース・レジャーがジョーカーを演じ、圧倒的な存在感でオスカーを獲りました。ヒース版ジョーカーは、そのオリジンを一切語りません。そしてニコルソン版ジョーカーが毒ガスで物理的にゴッサムに破滅をもたらそうとしているのに対し、ヒース版はゴッサム市民の心を汚染していくのです。ヒースのジョーカーが凄すぎて、次にこの役を演じる人は相当なプレッシャーだろうと思いましたが、『スーサイド・スクワッド』ではジャレッド・レトが演じます。
ジャック・ニコルソン、ヒース・レジャーのマネをしてもしょうがない。新たなジョーカー像に挑んでいます。愛を信じていないニコルソン版ジョーカー、愛を狂わせるヒース版ジョーカーに対し、ジャレッド・レト版ジョーカーはクレージーな愛を貫き通そうとします。個人的にはジョーカーには細身のイメージがあるのでジャレッド・レト版は体系的にピッタリです! なおアニメ版ではスター・ウォーズのルークことマーク・ハミルが声をあてています。
さて、ジョーカーのオリジンは謎のままですが、2019年秋、そのジョーカーの誕生にスポットをあてた『ジョーカー(仮題)』が公開されます。新たなジョーカーを演じるのは、ホアキン・フェニックス。新生ジョーカーの誕生を楽しみに待ちつつ、ニコルソンの元祖ジョーカー、レト版ジョーカーも楽しんでください。
文・杉山すぴ豊