4度目の映画化
3年前のアカデミー賞授賞式で、純白のドレスに身を包み、『サウンド・オブ・ミュージック』のメドレーを歌いあげたレディー・ガガ(ファンにとってはガガ様)には圧倒された。過激なパフォーマンスとファッションで知られる彼女だが、芯の通った才能溢れるアーティストなのだということを思い知らされた瞬間だった。『アリー/スター誕生』のレディー・ガガには、さらに圧倒された。演技の上手い下手ではない。アリーを体当たりで演じるレディー・ガガの覚悟が、何より美しく、感動的なのだ。
『スター誕生』は、これまで2度映画化されている。最初はウィリアム・A・ウェルマン監督で37年に『スタア誕生』として映画化され、主演はジャネット・ゲイナーとフレドリック・マーチ。2度目は54年のジョージ・キューカー監督の『スタア誕生』で、主演はジュディ・ガーランドとジェイムス・メイソン。ミュージカル女優のジュディ・ガーランドの持ち味を生かすため、ジュディのパフォーマンスを見どころにしたミュージカル版としてリメイクされた。3度目が76年のフランク・R・ピアソン監督の『スター誕生』で、主演のバーブラ・ストライサンドに合わせて舞台を映画界から音楽界に移し、カントリー&ウエスタンの歌手だったクリス・クリストファーソンが共演した。『アリー/スター誕生』は、この76年版を踏襲しつつ、ストーリー全体をレディー・ガガのキャラクターに合わせて書き改めている。
レディー・ガガはアリーそのもの
レディー・ガガは、イタリア系アメリカ人の実業家を父に持ち、裕福な家庭のお嬢様として何ひとつ不自由なく育ったものの、学校でいじめにあい、自分の恵まれた境遇に反発するように十代からクラブでパフォーマンスを始めた。一時はストリッパーとして生計を立てていたことさえあり、女優を志してオーディションを受けては落ちたという。そんなガガ本人の体験が、アリーの背景に生かされている。
アリーの父親は成功した実業家ではなくて、ハイヤーの運転手(アンドリュー・ダイス・クレイ)。娘を愛し、歌手になりたいという娘の夢に理解は示すものの、もっと実直な人生を歩んで欲しいと思っている。アリーはレストランでウェイトレスとして働きながら、小さなクラブでパフォーマンスを披露している。そんなとき、近くでライブのあったロック・スターのジャクソン・メイン(ブラッドリー・クーパー)が、アリーが歌っているクラブにふらりと現れ、才能を認める。ジャクソンはアリーを自分のライブの舞台に上げ、ツアーに参加させることで成功の第1歩を踏み出させる。やがて二人は愛し合うようになるが、ジャクソンは難聴で聴覚を失いつつあり、苛立ちとストレスから酒とドラッグを手放せなくなっていた…。
本作のもう一人の主役が、初監督も務めたブラッドリー・クーパーである。クリント・イーストウッドの『アメリカン・スナイパー』で20キロ近く体重を増やして役作りをしたクーパーだが、今度はスーパースターのミュージシャンを演じるためにボイス・トレーナーについて歌のレッスンを積むと共に、いつもの声域をオクターブ近く下げて、低くてよく響く、“ミュージシャンの声”を作り上げた。こんなに歌が上手い人だとは思わなかった驚きの歌唱力で、ガガとのセッションでも一歩もひけをとっていない。
映画の見どころは何といっても二人のパフォーマンスだ。ミュージカル映画では普通、音楽や歌を先に録音し、撮影時に録音した音楽を流して踊ったり、口パクで演技したりする。でないと時間も労力も大変すぎるからだが、口パクだからどうしても不自然になる。それを避けようと、ブラッドリー・クーパーは、劇中の全パフォーマンスのライブ同時録音に挑戦し、素晴らしい迫力を生み出すのに成功している。もちろん技術の進歩が可能にしたのは確かだが、それにしても、本当にステージの上にいるような臨場感が味わえる。なので、この映画は必ず映画館の音響のいい、大きなスクリーンで見ていただきたい。
文・齋藤敦子
アリー/ スター誕生
アリーの夢―それは歌手になること。なかなか芽が出ず諦めかけていたある日、世界的シンガーのジャクソンと出会う。
彼女の歌にほれ込んだジャクソンに導かれるように華々しいデビューを飾り、瞬く間にスターダムを駆け上るアリー。
激しく恋に落ちて固い絆で結ばれる2人だったが、アリーとは反対に、全盛期を過ぎたジャクソンの栄光は陰り始めていき・・・。
ラストステージ――ジャクソンの愛が、アリーの覚悟が、そして2人のうたが、
見るものすべての心を震わす圧巻の感動エンターテイメント。
制作年: | 2018 |
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監督: | |
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