仏人監督と米豪華キャストによる、なんともユニークな西部劇が誕生した!
イタリア製西部劇をマカロニ・ウエスタン(またはスパゲティ・ウエスタン)と呼び、三池崇史監督の和製西部劇が『スキヤキ・ウエスタン ジャンゴ』(2007年)であるならば、フランス人監督が撮った西部劇はどう呼ぶべきだろうか。ガレット・ウェスタン? それともビスク・ウェスタン? 料理名はどうあれ、なんらかの呼称をつけたくなるぐらい、鬼才ジャック・オーディアールが監督を務めた本作『ゴールデン・リバー』(2018年)はユニークな西部劇である。
西部劇と言えば男のプライドをかけた決闘や、大切な人を殺した相手への復讐、あるいはあくどい権力者に虐げられる人々を助けるヒーローの活躍が我々の胸を熱くするものだが、『ゴールデン・リバー』の4人の男たちが狙うのは“黄金”。……と言っても、「良い奴、悪い奴、卑劣な奴」が金の争奪戦を繰り広げるような話でもない。それどころか黄金に魅せられた殺し屋兄弟と連絡係と化学者が、それぞれの立場を超えて手を結ぶというのが面白い。
そして4人のキャラクターもいい味を出している。ゴツい見た目に反してロマンチストで弟思いな兄イーライ(ジョン・C・ライリー)と、凶暴で大酒飲みだが言動に少年っぽさが見え隠れしどこか憎めない弟チャーリー(ホアキン・フェニックス)のシスターズ兄弟。旅先でマメに日記を綴り、妙に洗練された文体の置き手紙を兄弟に残していく、文系インテリ男子な連絡係モリス(ジェイク・ギレンホール)。大きな瞳を輝かせながら、「黄金を元手に、野蛮な世界を終わらせて理想郷を作る」と熱く語り、男たちを啓蒙する化学者ウォーム(リズ・アーメッド)。
彼らは「兄弟愛」「ヒューマニティ」「シヴィライゼーション」という本作のテーマを、ところどころに用意された“萌えポイント”とでも言うべき見せ場で巧みに体現してみせる。例えばイーライが慣れない手つきで歯磨きをする姿や、都会のホテルの立派な設備に喜ぶ姿は、彼の文明社会への関心を暗示する印象的なシーンと言えるだろう。また、『ナイトクローラー』(2014年)のギレンホール×アーメッドのコンビが、本作ではユートピアを夢見て友情で結ばれるキャラクターを演じているのも感慨深い。
大物作曲家デスプラによる“攻め”の音楽を聴き逃がすな!
このように異色な内容の本作であるから、アカデミー賞受賞作曲家のアレクサンドル・デスプラによる音楽もまた、独創的なものとなっている。ジャズ/ブルースのコンボのスタイルを取り入れて作曲したという本作のスコアは、エンニオ・モリコーネのオペラティックな音楽や、エルマー・バーンスタインの雄大な音楽とも全く雰囲気が異なる。ピアノや擦弦楽器によって演奏される様々な反復フレーズを用いた、実験的かつアブストラクトなサウンドと表現できるだろうか。
そして、エレクトリック・ヴァイオリンとエレクトリック・チェロ、プリペアド・ピアノという現代的な楽器を用いている点も見逃せない。1850年代が舞台の映画で、デスプラはなぜこのような現代的な(当時の視点から言えば未来的な)楽器を用いたのか? 本作のサウンドトラック・アルバムのライナーノーツの中で、筆者なりの考察を書かせて頂いたので、気になる方は拙稿をご覧頂ければと思う。
それにしても、『グランド・ブタペスト・ホテル』(2013年)でのヨーロッパの各種伝統楽器、『シェイプ・オブ・ウォーター』(2017年)のアコーディオンとフルート(と口笛)、『ヴァレリアン 千の惑星の救世主』(2017年)のアナログシンセサイザー、『犬ヶ島』(2018年)の和太鼓とサックスなど、作品のテーマとなる“音”を見つけ出すデスプラの鋭敏な感覚にはいつも驚かされる。
2019年6月17日~20日に、CS映画専門チャンネル ムービープラスで特集:24時間ウエスタンがあるので、ここで一挙放送される11作品と併せて、2019年7月5日(金)公開の『ゴールデン・リバー』を是非ご覧頂きたい。デスプラの音楽のユニークさが、きっとお分かり頂けるはずだ。ちなみに放送作品の中では、マルコ・ベルトラミが滋味あふれる音楽を作曲した『ミッション・ワイルド』(2014年)も要チェックである。
文:森本康治
『ゴールデン・リバー』は2019年7月5日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国順次ロードショー
『ゴールデン・リバー』
黄金がつないだまさかの友情。
決して手を組むべきではなかった4人の、一攫千金ウエスタン・サスペンス。
制作年: | 2018 |
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監督: | |
音楽: | |
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