荒野の七人+女ガンマン
ホテルと酒場と駅しかない町・テキサス州リバティ。ジェシー(ベン・ジョンソン)とグレイディ(ロッド・テイラー)は、南北戦争の上官だったレイン(ジョン・ウェイン)と合流し、ロウ夫人(アン=マーグレット)の夫が5年前の列車強盗で隠した50万ドルの金塊を探す旅に出る。助っ人のカルフーン(クリストファー・ジョージ)、サム(ジェリー・ガトリン)、ベン(ボビー・ヴィントン)を加えた7人は国境を越えてメキシコへ。が、20騎のワイルドバンチ軍団と謎の紳士が彼らのあとを追っていた……。
ジョン・ウェインのバトジャック・プロ製作、監督・脚本に『夕陽に立つ保安官』(1968年)のバート・ケネディを迎えてメキシコで撮影された娯楽西部劇で、ケネディらしいシンプルでヒネリのきいたストーリーが楽しめるし、メキシコの荒野や川を疾走する馬たちも風景も実に美しい。
それでいて、いつものジョン・ウェイン組に『鳥』(1963年)のロッド・テイラー、テレビシリーズ『ラット・パトロール』(1966~68年)のクリストファー・ジョージ、さらにゴージャスな金髪の紅一点アン=マーグレットを加えた“荒野の七人+女ガンマン”になっているのは、さすが『続・荒野の七人』(1966年)と『女ガンマン・皆殺しのメロディ』(1971年)を作ったケネディらしい趣向だ(アン=マーグレットは特に銃は撃たないけど)。「ルパン三世」を思わせる部分もあるし、主人公レインとロウ夫人という名前が、ウェイン主演の3D西部劇『ホンドー』(1953年)と同じなのもケネディ流のお遊びだろう。
ジョン・フォード「マカロニ・ウエスタン? 冗談だろ」
ところで、アメリカ映画監督協会の雑誌<アクション>にバート・ケネディとジョン・フォードが交わした、こんな会話が掲載されたことがあるという。
ケネディ「イタリアやスペインで作られた西部劇を観ましたか?」
フォード「冗談だろ」
ケネディ「何本かはヒットしてます」
フォード「どんなものなんだね」
ケネディ「ストーリーなし、背景なし。ただ殺すだけ。1本で5、60人殺します」
(※アレックス・コックス著「一万通りの死にざま/映画監督が観たマカロニ・ウエスタン」より)
アメリカ西部劇の父ジョン・フォードは、このころガンの闘病中だった(『大列車強盗』公開の半年後に他界)。勝手に想像するに、ジョン・ウェインとバート・ケネディは「オヤジの代わりに、イタリアやスペイン製じゃない本物の西部劇を見せてやろうぜ」とタッグを組んだ……に違いない。
まず、オープニングは荒野の真ん中の駅。ジョン・フォード組の常連ベン・ジョンソンが列車を待っている。音楽はなく、砂塵の舞う音と風車がきしむ音だけが聞こえる。セルジオ・レオーネの『ウエスタン』(1968年)そっくりじゃないか! 到着した列車から降りてくるのは、ウェインと貴婦人然としたアン=マーグレット……まるで『ウエスタン』のチャールズ・ブロンソンとクラウディア・カルディナ―レの登場場面をひとつにまとめたみたいだ(レオーネが30分かかった紹介部分がほんの6分ほどになってる)。
女性はどちらも“過去のある未亡人”だが、『ウエスタン』で悪党フランク(ヘンリー・フォンダ)とベッドを共にするジル(カルディナ―レ)と違って、『大列車強盗』のアン=マーグレットは終始一貫、貴婦人のように扱われる。6人の男たちは、ゴージャスなグラマーと何日も旅をしても悪さひとつしないし、言葉づかいもずっと丁寧だ。彼らの雇い主なんだからと言われればそうだが、こんな巨乳美女を前にして……いや、野卑で下品でリアルなマカロニ・ウエスタンと違い、ジョン・ウェインの西部には女を犯す男なんかいるはずがないのだ。
巨人ジョン・ウェインの西部劇への想いが溢れたハリウッド・ウエスタン
象徴的な場面がある。雷で大木が倒れて馬が下敷きになる。安楽死させようとするロッド・テイラーをクリストファー・ジョージが止めて馬を助け出す。それを見たウェインは「見直したぞ」と褒める。これは、『荒野の用心棒』(1964年)から『許されざる者』(1992年)までクリント・イーストウッドが追及し続ける“安楽死”問題へのハリウッド的な回答だろう(馬だけど)。安楽死(とどめを刺すこと)はハリウッド映画ではタブーで、それを初めて破ったのが、元祖マカロニ・ウエスタン『荒野の用心棒』のレオーネとクリント・イーストウッドだった。
イーストウッドといえば“ラバ”だ。『荒野の用心棒』でラバ(ミュール)に乗って登場し、『真昼の死闘』(1970年)でラバと尼僧のお供をし、『運び屋』(2018年)ではラバ(ミュール)と呼ばれる麻薬を運ぶ“運び屋”になった。『大列車強盗』のラバは、はじめはいうことをきかない暴れん坊だが、そのうち手なずけられてダイナマイト入りの木箱や金塊をおとなしく運んでいく。「ラバはこうやって使うんだ」とウェインが教えてくれているのだ。
『奴らを高く吊るせ!』(1968年)のドミニク・フロンティアによる音楽は、『荒野の七人』シリーズのエルマー・バーンスタインを思わせる雄大感と疾走感と風格のあるホーン入りの交響楽団演奏で、これぞハリウッド西部劇といわんばかり。決してエレキギターや女性歌手のスキャットなんて聞こえてこない。ウェインが教訓めいたことを教えてやる若いガンマンのひとりは、あの「ブルーベルベット」で有名な歌手ボビー・ヴィントンだが、もちろん甘い声で歌って女性をメロメロにするなんてシーンは一切ない。「流行歌手ごときは、俺に黙ってついてこい!」とウェインが命令しているかのようだ。
1930年代からハリウッド西部劇を背負って立ってきた巨人ジョン・ウェインの「西部劇への想い」が溢れているかのような『大列車強盗』。その3年後、ウェインは『ラスト・シューティスト』(1976年:原作は『ミッション・ワイルド』のグレンドン・スウォーサウト)を最後に引退、1979年に72歳で世を去った。
文:セルジオ石熊
「特集:24時間 ウエスタン」はCS映画専門チャンネル ムービープラスにて2019年6月放送