まだ戦後間もない50年代に誕生した初代ゴジラは恐怖の対象だった
ゴジラは1954年にデビュー。この『ゴジラ』は核実験によって誕生したゴジラが東京を火の海にするというディザスター映画であり、核の恐ろしさという文明批判の物語です。まだ第二次世界大戦が終わってから10年後ぐらいの公開で、戦争の影も色濃い。ゴジラは恐怖の対象でした。
当時としては“怖かった”というレベルではなく、このゴジラはいま観ても本当に恐ろしいのです。僕はリバイバルで本作を劇場で見直した時に、その目の異様さにゾっとしたことがあります。例えば“貞子”の目に匹敵するような人類への恨みに満ちており、たまたま東京に上陸したというのではなく、明らかに人々を殺すために来たことがわかるのです。
『ゴジラ』は大ヒットしシリーズ化されますが、こうした“恐怖のゴジラ”トーンはだんだん薄れていきます。従ってゴジラと言えば、この恐怖と文明批判に満ちた1作目、という声も多いのです。1954年版の精神にのっとり作られたのが『シン・ゴジラ』(2016年)なのでしょう。戦災ではなく“震災”をモチーフに、ゴジラの脅威を描いていました。
その後、ゴジラは悪い怪獣と戦う“ヒーロー”として子どもたちの人気者に
ゴジラは1960年代後半から、子ども向け怪獣映画路線に切り替わります。ゴジラが他の怪獣と戦う“VSもの”が増え、当初は生物としての本能から敵怪獣と戦っていましたが、だんだん子どもの味方的な立ち位置になってきます。
実は、僕がゴジラ映画を観はじめたとき(=映画館に行くようになったとき)は、すでにこのゴジラ路線で、だからすごく楽しかった。ウルトラマンの人形を買うようにゴジラ人形を持っていたし、自分なりの新怪獣を考えてゴジラと戦うことを妄想したりしていたのです。
しかしながら、こうした“悪い怪獣と戦うヒーロー・ゴジラ”は、強烈だった1954年版に比べ、映画として高い評価を得ているとは言い難かったし、“怪獣プロレス”なんていう言い方もされていた。ハリウッドがまたゴジラを作ると聞いたときも、1954年版のディザスター映画としてのリメイクだろうと。ところが蓋を開けてみたら、
■この地球は太古の時代には巨大怪獣たちに支配されており、彼らはまだ隠れて存在している
■その頂点にいるのがゴジラ
■悪い怪獣が復活するとき、ゴジラがそれらを退治し秩序をもたらす
……という、まさに“ヒーロー・ゴジラ”の映画化だったのです。そして本作『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』は、その“ヒーロー・ゴジラ”路線をさらに昇華させ、ゴジラと邪悪なキングギドラの対決をベースに、そこに他の怪獣モスラやラドン等が絡み、さらに怪獣をめぐって様々な人間たち、謎の組織が絡んできます!
ベースとなった東宝作品は? オリジナルへのオマージュ盛りだくさん!
本作の監督(マイケル・ドハティ)は、よっぽどゴジラ映画が好きなのでしょう。ここはネタバレになるので詳しく書きませんが、過去の東宝の怪獣映画からの引用が実に! 実に! 実に! 多い。というのも、僕が「これ、子どものころに観たあれだ!」と思うシーンが本当に多かったので。
本作のベースとなっているのは、キングギドラがデビューした1964年の『三大怪獣 地球最大の決戦』であり、宇宙から来たキングギドラをゴジラたちが迎え撃つ、というものです。この作品ではゴジラもラドンも、まだ人類にとっては悪役・脅威(=決して人類の味方ではない)ですが、自分たちの星を守るために戦うのです。人類から見れば『アベンジャーズ』というよりも『スーサイド・スクワッド』ですね。となると本作は、やっぱり“怪獣登場シーン”“怪獣バトルシーン”が、いかにカッコよく撮られているか? につきるわけです。
個人的にはラドン(アメリカではロダンと呼ばれています。従って劇中ではロダンと発音されていますが、字幕ではラドンと表記)がとても好きなので、ラドンの登場シーンは文字通り“鳥”肌もの。ちゃんと東宝映画同様、火山から現れるし、ジェット戦闘機と空中戦を演じるし、さらに翼の衝撃波であらゆるものが飛ばされていく。ラドンのデビュー作である『空の大怪獣ラドン』へのオマージュがいっぱいです。ちなみに同作は1956年公開だから、劇中のラドンは「No,56」みたいに認識されています。このラドンのシーンを観ることができただけでも、本作は僕にとってお気に入りなのですね。
あまりにストレートな怪獣バトル映画で、ストーリーの弱さを指摘する声もありますが、怪獣を利用せんとする2つの組織と、ある家族の物語でもあり、ここが単なる善と悪の組織の戦いになっていない等、ひねりもあって楽しめました。本作でハッキリするのは、ゴジラたちは単なる危険な巨大生物ではなく、知能や社会性を持った“巨神”なのです。だから劇中でも、彼らをタイタンズ=巨神と呼び、あまりモンスターやクリチャーとは呼ばない。メインとなる四大怪獣のうち、ゴジラだけが空を飛ぶことができない、という構図も面白いですね。
出演のカイル・チャンドラーは、2005年のピーター・ジャクソン版『キング・コング』に出演。2011年のJ.J.エイブラムス『SUPER 8/スーパーエイト』でも巨大宇宙怪人と戦っていますから、ハリウッドが誇る怪獣映画役者(笑)。彼は傑作サスペンス『アルゴ』(2012年)にも出演しています。『アルゴ』といえば、本作にもゴジラたちを追うアルゴ号というすごい飛行機が出てくるのですが、この名前は洋もの怪獣映画の傑作『アルゴ探検隊の大冒険』(1963年)からとっているのでしょう。乗り物といえば他にも、かつての東宝怪獣映画には欠かせないビークルの潜水艦も出てきます。
モンスター・バース始動! 次なる物語はキングコングvsゴジラだ!!
劇中では、髑髏島=キングコングの存在もしきりに語られます。そう、『GODZILLA ゴジラ』『キングコング:髑髏島の巨神』『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』と経て、2020年はいよいよキングコングとゴジラが激突!『キングコングVSゴジラ(仮)』が公開です!!
この一連のシリーズは“モンスター・バース”と言われます。コミックではアベンジャーズとゴジラが戦ったこともあります。将来、マーベル・シネマティック・ユニバースとモンスター・バースのコラボが実現したら「アベンジャーズVSゴジラ」も映画で観たいですね(笑)。
文:杉山すぴ豊
『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』は2019年5月31日(金)より世界同時公開
『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』
ハリウッド版「ゴジラ」最新作!前作『GODZILLA ゴジラ』から5年後の世界が舞台。モスラ、ラドン、キングギドラらの神話時代の怪獣たちが復活し、世界は破滅へと歩みを進める。
制作年: | 2019 |
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監督: | |
出演: |