今年は『ゴジラ』(1954年)公開70周年! そんなめでたい年にふさわしく『ゴジラ-1.0』が第96回アカデミー賞でアジア映画史上初の視覚効果賞を受賞! さらに昨年11月3日に公開された『ゴジラ-1.0』から、わずか半年しか経っていない現在、ゴジラとキングコングという日米のレジェンド怪獣が遂に本格タッグを組む『ゴジラxコング 新たなる帝国』が絶賛公開中! という、ゴジラ70周年をこれ以上ないくらい盛り上げてくれるイベントが開催されている。
そんなわけで今回は、『新たなる帝国』のリピーターが続出してゴジラ70周年がさらに熱いものになってくれるように、本作の見所や元ネタを徹底解説して、微力ながらブームを援護射撃したいと思う。
※物語の内容に一部触れています。
アダム・ウィンガード監督の反省点と改良点とは
監督は前作『ゴジラvsコング』(2021年)に引き続きアダム・ウィンガードが担当。『』は、特にクライマックスの香港大決戦シーンは何度も観てしまうほど素晴らしい映画だと思う。しかし、当のウィンガード監督は、「人間の登場人物をたくさん出しすぎた。あまりにも多くのエピソードを盛り込みすぎて、怪獣の登場シーンが少なかった」と猛烈に反省したという。
あんなにゴージャスな映画だったのに……と思うのだが、ウィンガード監督的には納得がいかないご様子で、今作『ゴジラxコング 新たなる帝国』では新たな方向性を提示している。
まずは登場人物の数を絞る。さらに、記念すべきモンスター・ヴァース映画第1弾『GODZILLA ゴジラ』(2014年)以来初めて、『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』(2019年)のエコテロリスト集団のような“人間のヴィラン”を出さないことにした。
今回のストーリーを作るうえで、常にシンプルさを目指した。登場人物の数を減らせば、観客は彼らと過ごす時間が多くなり、よりストーリーを親密に感じてくれる。それに怪獣の登場シーンも多く描けるしね。
その結果、モンスター・ヴァース作品の中でトップクラスに<東宝チャンピオンまつり>風味が濃厚なゴキゲンかつチャイルディッシュな映画に仕上がっている。まあ、本作の人間キャラクターたちがモンスター・ヴァース作品の中でトップクラスに、というか不気味なほど物分かりが良すぎるので話がサクサク進んでいく、という意見もあるが、おかけでグッとくる怪獣シーンがたくさんあるから無問題!
ダン・スティーヴンス参戦! 新旧登場人物紹介
今回登場する人間側の主役キャラは、前作から続投する怪獣の調査機関モナークの人類言語学者アイリーン・アンドリュース(レベッカ・ホール)、髑髏島の先住民イーウィス族の少女で、アイリーンの義理の娘であるジア(ケイリー・ホトル)、ポッドキャストで怪獣絡みの陰謀論をシャウトし続けているバーニー・ヘイズ(ブライアン・タイリー・ヘンリー)、モナーク所属の怪獣専門ドクターで本作が初登場となるトラッパー(ダン・スティーヴンス)の4人。
なお残念なお知らせだが、前2作では主役級の扱いで「この方がモンスター・ヴァース・シリーズを背負って立つキャラなのかな?」と思われた、『ストレンジャー・シングス 未知の世界』(2016年~)のイレヴン役でおなじみミリー・ボビー・ブラウン演じるマディソンは登場しない。しかしウィンガード監督は「マディソンは今回の物語には登場させることができなかった。でも、今後のモンスター・ヴァース作品に戻ってくるかもしれないよ」と語っている。
物語は、地球征服を狙う謎の怪獣スカーキングの新たな野望を阻止するため、アイリーンたちとコングが、ゴジラに助けを求め共闘する、というもの。そんな『ゴジラ対メガロ』(1973年)を思わせるシンプルなお話の中に、ウィンガード監督のゴジラ愛&オタク趣味が豪快にトッピングされた見せ場がふんだんにある。
「コング対ワートドッグ」とハリウッド版メカゴジラのトリビア
「この映画の実質的な主人公はコングだよ」とウィンガード監督が語るように、本作も『ゴジラvsコング』に続きコングのシーンから幕開けする。
前作でメカゴジラを破壊した後、地球の地下空洞世界で暮らしていたコングが、狼やハイエナを醜くしたようなルックスの怪獣<ワートドッグ>(直訳:いぼ犬)の大群に追われている。このシーンで、コングが地下空洞世界内の縄張りのあちこちにジョン・ランボーばりの極悪かつ真心をこめたブービートラップをこしらえていた、という頭脳&器用さのオーナーであることが判明する。
ワートドッグはモンスター・ヴァース作品初登場の怪獣。本作に登場する怪獣のデザインを担当したのは、『ゴジラvsコング』、『ランペイジ 巨獣大乱闘』(2018年)、『ミュータント・タートルズ』シリーズ(2014年/2016年)等の作品でクリーチャー・デザインを担当したジャレッド・クリチェフスキー。彼はワートドッグをデザインする際、『ロード・オブ・ザ・リング/二つの塔』(2002年)に登場した醜悪なルックスの狼怪獣、ワーグからインスピレーションを受けたという。
Stopping like a maniac all over Hollywood today. pic.twitter.com/AgbjwJztuv
— Jared Krichevsky - Fernie MertBert Kickstarter🍕 (@Monstermash042) March 10, 2024
余談になるが、クリチェフスキーは『ゴジラvsコング』のメカゴジラをデザインした人物でもあり、驚くべきことに『レディ・プレイヤー1』(2018年)に登場したメカゴジラのデザインも担当している。つまり、ハリウッド映画に登場したメカゴジラのデザインは全部この御方の仕事! 作品の方向性によってタイプが違うメカゴジラをデザインできるスキルには頭が下がる。ちなみに『ゴジラvsコング』版メカゴジラは企画段階では、モンスター・ヴァース版ゴジラに似た顔とプロポーションのデザインも検討されていた。
Here we go! Greatest pleasure of my life designing Mechagodzilla (twice!) @LegacyEffects along with Darnell Isom and Simon Weber, who also did some great takes. Huge thanks to Lindsay MacGowen and Damon Weathers. Also Adam Wingard for Knocking it out of the park with @Legendary pic.twitter.com/lXvBwc8Zwt
— Jared Krichevsky - Fernie MertBert Kickstarter🍕 (@Monstermash042) April 7, 2021
そんなメカゴジラは今作には登場しないが、DCコミックのヒーロー・チーム<ジャスティス・リーグ>とモンスター・ヴァース怪獣たちとの激闘を描く、という夢がありすぎるコミック「Justice League vs. Godzilla vs. Kong」には登場している。しかも、『ゴジラvsコング』で破壊されたメカゴジラの残骸を入手したレックス・ルーサーによって作られた、という燃える設定で! さらに、バットマンがフラッシュやサイボーグと共に操縦するバットマン型巨大ロボ、グリーン・ランタン・ロボ、『超時空要塞マクロス』(1982~1983年)に登場したガウォークバルキリーのような形態に変形するバットウィングと戦う……という、イイ意味でクレイジーな作品なので、ぜひ日本語翻訳版を!
— Jared Krichevsky - Fernie MertBert Kickstarter🍕 (@Monstermash042) March 19, 2024
コング誕生から91年目にして初めて描かれる、まさかの健康トラブル
話題を戻すと、映画の冒頭で描かれるワートドッグとのチェイスシーンでは、コングが真っ二つに引き裂いたワートドッグから流れる緑色の血を全身に浴びて、『フランケンシュタインの怪獣 サンダ対ガイラ』(1966年)に登場した怪獣ガイラ風なカラーリングになる――という、ウィンガード監督ならではの小粋なサービスもある。
そんなコングは、モンスター・ヴァース作品に初登場した『キングコング:髑髏島の巨神』(2017年)の時(※舞台設定は1973年)は身長約32メートルだったが、今回はなんと102メートルに成長! それに伴いデザインでは、ヒゲを延ばし、全身の毛が少し灰色になった。
さらにCG技術の発達により、コングの表情の豊かさもバージョンアップ! 本作はモンスター・ヴァース作品の中では最も”怪獣だけのシーン”が多い作品なのだが、コングの顔を見ていれば何を言いたいのかが伝わる、世界中のどこの国の方が鑑賞しても楽しめる言語を超越した映画に仕上がっている。
その後も映画は、ワートドッグの群れを壊滅させたコングの日常を追う。返り血を浴びた身体を滝で洗い流すコング。殺したワートドッグを召し上がるコングなど、ゴリラ・ファンおよびエイプ系怪獣が三度の飯よりも好きな方にはたまらないシーンが続く。が、しかし! ワートドッグの肉に食らいつこうとしたコングが顔をゆがめた……。
どうしたの? と思ったら、コングの立派な犬歯がハードコアな虫歯になっていた! という、『キングコング』(1933年)誕生から91年経った今年、まさかのコング史上トップクラスに厄介なお悩みを抱えていることが判明‼️ 一体どうなるのか!? 大作モンスター映画の主役怪獣が、怪獣映画的にはどうでも良さそうなトラブルに見舞われているとは……。ちなみに、この冒頭シーンでは『ゴジラvsコング』に初登場した、ワニを太らせたような怪獣<ダグ>も登場する。