映画監督に著作権はない、ましてや映画タイトルには!
『メトロポリス』(1926年)、『M』(1931年)で知られるフリッツ・ラング監督にピーター・ボグダノヴィッチ監督がインタビューした、「映画監督に著作権はない」という名著がある。いうまでもなく、ラングにしてもボグダノヴィッチにしても、あるいはヒッチコックにしても黒澤明にしても、自分が監督した作品に対する著作権は持っていない。著作権者は映画を製作した会社であり、映画監督には創作者として著作人格権はあるものの、著作権はない。
実は、同様に、映画のタイトルについても著作権はない。そのため、複数の同一の“映画タイトル”が存在しうるのだが、今回はそんな観点で、いくつかの作品をご紹介したい。
『死霊のはらわた』のタイトルを拝借して『死霊のはらわたⅡ』を公開してもOK!?
筆者が日本ヘラルド映画で宣伝の仕事をしていたのはもう40年近く前だが、最初期に担当した作品のひとつに、1985年公開のサム・ライミ監督の『死霊のはらわた』(1981年)がある。1970年代のヘラルドでは、『悪魔のはらわた』(1973年)、『悪魔のいけにえ』(1974年)、『悪魔の沼』(1977年)といったホラー映画を立て続けにヒットさせ、“悪魔シリーズ”のヘラルド映画を謳っていた。
『死霊のはらわた』はその路線の延長上の作品で、原題は『THE EVIL DEAD』というのだが、邦題はいかにもヘラルドのセンスで、結果的にスプラッター・ブームを巻き起こしてスマッシュ・ヒットした。だが、その3年後に同じライミ監督が『EVIL DEAD II』を作った時、日本配給権はライバル会社の松竹富士の手に渡り、『死霊のはらわたⅡ』として公開。われわれヘラルド宣伝部が知恵を絞って付けたタイトルが松竹富士にパクられたようで疑問を感じて、当時の宣伝部長に聞いてみたところ、「まあ、お互い様でもあるし、そもそも映画タイトルに著作権はないんだよ」と教えられた。
タイトルのように非常に短い表現を著作物として認めてしまうと、後世の人々にとって「あれもダメ、これもダメ」と同じような表現を用いることが出来なくなって表現の選択が大幅に制限されてしまい、結果として新たな創作活動に支障が生じる、との理由で映画のタイトルや楽曲、本のタイトルなどには著作権が認められていないのだ。