唯一無二の「狂気」の世界
主人公のレッド(ニコラス・ケイジ)は愛する女性・マンディ(アンドレア・ライズブロー)と人里離れた山奥でひっそり暮らしている男。しかし平穏な日々もつかの間、マンディは謎のカルト集団によってレッドの目の前で豪快に焼き殺されてしまう。復讐に燃えるレッドは、ボーガンとオリジナルのイビツな形をしたハンドメイド斧を手に、単身カルト集団に戦いを挑む!
というわけで、本作のストーリーはハッキリいうとゴマンと繰り返されてきた「愛する人を殺された男の復讐劇」。しかし、キング・クリムゾンの「スターレス」が流れるオープニングから、観るものをゆっくりと異常な世界に手繰り寄せ、気付いた時にはもう手遅れ。作り込みが半端ない世界観と斬新すぎる手法で描いたシンプルなお話は、これまでまったく観たことがないのにどこか懐かしさもある、という唯一無二のワールドに突入。「狂気」だけが放つことのできる異形の美しさをギンギンに振り撒きながらジャンル映画の壁を突破する。
本作のポスターは、赤と青が混じり合う地獄のようなグラデーションという色使い。そして中央にはこちらを少し見下ろし気味で佇むマンディことニコラス・ケイジ、そしてその奥にマンディの姿が見える。この色と構図は映画の内容そのまんま。全編にわたりギラついた赤と青のライティング、溶けて混じり合う人間の顔、トロットロのスローモーション。無限に思える時間の拡張とイメージが溶けて混ざり合う様はドラッグの作用のようだ。それゆえに、いったい何を観ているんだ? と、何が何やらわからなくなる瞬間が訪れる。そうしてストーリーのシンプルさに幾度となく救われながら、右肩上がりで加速するテンション。B級アクションの皮を被った理屈抜きの体感型トリップ・ムービーだ。
監督のパノス・コスマトスは『カサンドラ・クロス 』、『ランボー/怒りの脱出』『コブラ』などのアクション映画で有名なジョルジ・パン・コスマトス監督の息子。幼い頃から慣れ親しんだ映画(ちなみに筆者は『マッドマックス2』『ファンタズムII』『悪魔のいけにえ2』など、狂乱のパート2軍団を思い浮かべた)や、音楽を含むポップカルチャー、ドラッグカルチャーを詰め込んでぐちゃぐちゃに噛み砕いてオリジナルな世界観を構築。そこで存分に暴れ倒す血まみれのクレイジー・スター、ニコラス・ケイジ。これで面白くないわけがない!
文:市川力夫