92年の『レザボア・ドッグス』で無名監督タランティーノは、2年後、一気にスターになった。今回、ディカプリオとブラッド・ピットのダブル主演で華やかな新作をひっさげ、古巣カンヌ映画祭に戻ってきた。
新作のワールドプレミア、上映の2時間前から列
映画祭が後半に入った現地時間21日、今年の最大の目玉、クエンティン・タランティーノの『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』が上映された。レオナルド・ディカプリオ、ブラッド・ピットというスーパースターのダブル主演、しかも正真正銘のワールド・プレミアということで、プレス上映には2時間以上前から列が出来た。
さて、いよいよ上映という段になって、記者会見の名物司会者で、この映画の字幕を担当したアンリ・ベアールが現れ、「記事の中でネタバレしないように」というタランティーノからのお願いが読み上げられた。
なので、どこまでストーリーを明かせばネタバレになるのかよく分からないが……。
主人公はテレビの西部劇で人気者になったリック・ダルトン(ディカプリオ)と彼のスタントマンで付き人のクリフ・ブース(ピット)。番組終了とともに落ちぶれたリックは、悪役に転向するものの、うまくいかず、マネージャー(アル・パチーノ)の勧めで、もう一旗揚げようと、イタリアに渡ってマカロニ・ウエスタンに出演することになる。一方、ハリウッドに残ったクリフは…。
今回は、テレビの西部劇全盛からマカロニ・ウエスタンの勃興というハリウッドの転換期を舞台に、様々なエピソード(『グリーン・ホーネット』のセットでブルース・リーとクリフを対決させたり)を織り込みながら、クライマックスのある事件へと進んでいく。
誰よりも映画好きな“タランティーノ自身”を納得させられる作品、だから愛される
タランティーノが初めてカンヌ映画祭に登場したのは92年の『レザボア・ドッグス』だったが、そのときの記者会見は、ハーヴェイ・カイテル、ティム・ロスから製作総指揮のモンテ・ヘルマンまで豪華な顔ぶれが揃っていたものの、コンペ外上映だったせいか、タランティーノが無名の新人監督だったせいか、プレス席は閑散としていた。それが、2年後の『パルプ・フィクション』のときは上映に入りきれないほどプレスが殺到、記者会見も満杯で、これほど見事にスターの階段を駆け上がった監督は、今にいたるまで彼以外に私は見たことがない。タランティーノがなぜこれほどまで好かれるのかといえば、映画ファンの心をがっちりつかむ術を知っているからであり(プレスは誰もが映画ファンだ)、それはとりもなおさず、彼自身が誰よりも映画が好きで、そんな自分を納得させられる映画を作ろうとしているからだろう。
今回上映された『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』は、カンヌ映画祭でお披露目するために急遽編集された、いわばカンヌ・バージョン。これから公開までにさらにブラッシュアップされるものと思われる。おそらく賞に絡むことはないだろうが、隅々までタランティーノの映画愛にあふれた、とびきり面白い映画だった。
文・写真:齋藤敦子(Text & Photo by Atsuko Saito)
『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』 CS映画専門チャンネル ムービープラスで2021年6月放送