破天荒兄弟、YouTuberから映画監督へ
インタビューが行われたホテルの一室。机の上に“あの手”が目の前に置いてあった。
「これ、握ってみてもいいですか?」
「いいですよ(笑)」
宣伝担当さんのお言葉に甘え、おもむろに握り「Talk to me…」と言ってみたが、当然、目の前に幽霊は現れず、代わりに登場したのは映画『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』の監督、ダニー・フィリッポウとマイケル・フィリッポウの兄弟。1週間前から日本に滞在していたという二人は時差ボケもなく、朝からハイテンションだった。
「今日は緊張してまして……劇中で流れるシーアの『シャンデリア』を聴きながらここに来たんですよ!」
本当に緊張していたので、彼らが着席する前に口走ってしまう。すると、
「え、ホント? じゃあ歌うしかないね!」
え、ちょっと……こうなったら歌うしかないじゃないか……。
「ああぁぁぁぁぁいむ、ごなとぅりぃぃぃぃ‼」
恥を忍んで仕方なしに大声を張り上げて歌う(だって、背後にスタッフの方々が10人以上いらっしゃるんですよ!)。
「いいね!」
そんな体を張ったアイスブレイクが終わり、インタビューが始まった。以下、ダニーとマイケルの双方が語っているので、二人の見解として読んでいただきたい。
「一見シンプルな映画だけど、見返すたびに発見があってエキサイトできる」
―はじめに、これまでたくさんのインタビューを受けてこられたと思います。なので、極力ユニークな質問を心がけたいと思います。
そりゃいいね! 期待してるよ!
―(机の上の手を持ちながら)『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』に登場する降霊術師の“手”、これは左手ですが、なぜ左手なんでしょうか?
うん、確かに初めて聞かれたかな……答えは「たまたま見つけちゃったのが左手だった」さ(笑)。でも、歴史的に左手というのは“悪”を表しているよね。そういう意味も込めているよ。
―“悪”の手……しかし、劇中降霊される“霊”は善なのか悪なのかわかりません。
握った本人の中に何があるかによって、何が引き寄せられてくるか変わるんだ。お酒とかドラッグもそうだよね、心の調子が悪い時にやってしまうとなんだかダウナーになってしまう。『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』の降霊術も同じで、精神的に参っていると良くないものが現れるんだ。
―脚本が相当練られていると思います。聞くところによると100ページ以上のドラフトを凝縮した結果だそうですね。作品を観ていて思ったのですが、前半と後半で完全な対となる描写が散見されます。
そう。意図的に対になるように構成したんだよ。エピソードをパラレルにすることによって、テーマが浮き彫りになるからね。それによって連想されるイメージも階層的になるんだ。『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』は視覚的にも聴覚的にも何層にも折り重なって構成されている作品だよ。だから一見、シンプルに見える映画だけど、見返すたびに発見があってエキサイトできる。どうやら君は何回も観てくれたようだね。僕らの目論見通りさ! 嬉しいよ!
―恐縮です……。キャストについて伺いたいのですが、90秒憑依チャレンジパーティを主催しているヘイリー役のゾーイ・テラケスさんはトランスジェンダーの俳優さんです。彼女を抜擢した理由はありますか? 失礼な質問でしたら、すみません。
何を聞かれたって怒らないよ(笑)。えっとね、脚本の段階では誰がどんなジェンダーであるか? は考えてなかった。オーディション中は女性がいいのかな? と思ったんだけど、ゾーイの芝居の強さにやられてしまってね。本人とも会話して、ノンバイナリーでも全然構わないとなったんだ。脚本もゾーイに合わせて少し強いキャラクターに変更したよ(後で聞いたところ、キャスティングには2年を要したとのこと)。
『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』
母を亡くした高校生のミアは、気晴らしに仲間とSNSで話題の「#90秒憑依チャレンジ」に参加してみる。
ミアたちはそのスリルと強烈な快感にのめり込み、チャレンジを繰り返していくが、仲間の1人にミアの母の霊が憑依し——。
監督:ダニー・フィリッポウ マイケル・フィリッポウ
出演:ソフィー・ワイルド ジョー・バード アレクサンドラ・ジェンセン
制作年: | 2023 |
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2023年12月22日(金)より全国ロードショー