批評家の星取り表ではP・アルモドバル監督の『苦悩と栄光(原題)』に次いでの2位につける本作。テレンス・マリック独自の映画制作手法を結実させた傑作と高評価だ。
テレンス・マリックの映画制作手法が花開いた
アルモドバルの『痛みと栄光(原題)』が批評家から絶賛された後、現地時間で5月19日に正式上映されたテレンス・マリックの『隠れた人生(原題)』が、アルモドバルを上回るほどの感動を与えてくれた。
映画は、第二次大戦中のオーストリアで戦争に協力することを最後まで拒否し続けた実在の農夫シュテファン・イェーガーシュテッターの抵抗の日々を描いたもの。題名の“隠された生活”とは、ジョージ・エリオットの小説<ミドルマーチ>の中の“世の中の善の大半は、歴史から忘れられた、人知れず、隠れた人生を送った人々の行動に負うている”(大意)という言葉から。
マリックはパルム・ドールを受賞した11年の『ツリー・オブ・ライフ』から、それまでの映画の話法を、映像を使ってストーリーを語るという従来のスタイルから、映像で思索する、あるいは思索を映像にする映画を作ろうとしてきたように思う。そのラジカルな試みは、『隠れた人生(原題)』という題材を得て、見事に結実したように思う。
ひとたび戦争が起こり、戦時の非常事態になると、戦争に反対することの自由が奪われてしまう。いや、戦争反対自体が犯罪になってしまう。それでも農夫シュテファン・イェーガーシュテッターは、自分の信条にのっとり、人殺しに加担することを拒否し続ける。彼のような名もない人々の行為が、今の世の中の平和の基になっているのだ、マリックはそう語りかける。
文・写真:齋藤敦子(text & photo by Atsuko Saito)
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