『パリ、テキサス』『ベルリン・天使の詩』『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』など、数々の傑作を世に送り出し続けてきた名匠ヴィム・ヴェンダース。彼が長年リスペクトしてやまない役所広司を主演に迎え、東京・渋谷の公共トイレ清掃員の日々を描いた『PERFECT DAYS』は、1988年にヴェンダース監督の『ベルリン・天使の詩』が30週にもわたるロングラン上映で大ヒットを記録した記念すべき映画館、TOHOシネマズ シャンテをメイン館として12月22日(金)より全国公開される。
10月11日(現地時間)に「第61回ニューヨーク映画祭」にて、本作のプレミア上映がに行われ、上映後には、主演を務めた役所広司と高崎卓馬(共同脚本・プロデュース)がQ&Aに登壇した。
名匠ヴィム・ヴェンダース×役所広司
本作は、ヴィム・ヴェンダースが、日本の公共トイレのなかに“small sanctuaries of peace and dignity(平穏と高貴さをあわせもった、ささやかで神聖な場所)”を見出し、清掃員・平山という男の日々の小さな揺らぎを丁寧に追いながら紡ぎ、「第76回カンヌ国際映画祭」で最優秀男優賞を受賞、さらに、「第50回テルライド映画祭」「第48回トロント国際映画祭」「第71回サンセバスチャン映画祭」「第43回台北金馬映画祭」と名だたる映画祭に招待されるなど、世界中の映画祭を席巻し続けている。先日、米国「アカデミー賞」国際長編映画賞の日本代表選出が決定し、10月23日(月)から始まる「第36回東京国際映画祭」では、オープニング作品としてアジアプレミアを予定。世界80国での配給が決定している。
「二度と訪れない、今のこの瞬間瞬間を大切に生きる」
1086席の客席は即座にソールドアウトとなり、いち早く本作を観ようと駆けつけた観客の熱気あふれる場内。上映後、2階席のふたりにスポットライトがあたると、会場は大歓声に包まれた。役所と高崎ふたりのユーモラスな回答にときおり笑い声が響くなど、和やかな雰囲気で、映画祭プログラマーとのQ&Aが行われた。
役所のために書かれた平山という役を演じるにあたり準備したことを問われると、「こんなにもすばらしい役を高崎さんとヴィム・ヴェンダース監督が書いてくれて幸せです。役を演じるにあたって一番大切だったことはやはり、トイレの掃除をきちんとプロのようにみえるように練習することでした」と役所。
ヴィム・ヴェンダース監督と共同で脚本を担当した高崎は、監督との脚本づくりについて、「最初からヴィムとは、フィクションの存在をドキュメンタリーのように撮ろうと話していました。脚本については、ものすごく台詞が少ないので、僕の娘は“お父さんはあんまり仕事してないんじゃないか”と思っていると思うんですけど…(笑)ヴィムも僕も心がけていたのは、書いていないものをちゃんと書く、スクリーンに映っていない部分がちゃんと出るように、ということです。そして脚本に書いていないものを映像にするというのはやっぱり役所さんじゃないとできなかったなと思います」と語り、役所の“平山”としての佇まいを絶賛した。
平山の行動や感情を、脚本からどのように捉えて演じたのか問われると、役所は「台詞は少ないけれどもとても美しい脚本で、そこから想像されるキャラクターに近づくために、毎日毎日トイレの掃除をしながら、サンドイッチを森の中で食べて、お風呂に入って、好きな本を読みながら満足して眠りにつく男というのは、どういう人だろうと思い浮かべながら撮影をしていました。本当にドキュメンタリーのように、ほとんどテストがなく、本番だけを繰り返して撮っていたので、まるでそこで本当に生活をしているような撮影でした。もう二度と訪れない、今のこの瞬間瞬間を大切に生きるという風に心がけて演じました」と、撮影時のことを思い返すように丁寧に語った。
「都会の人たちが、こんな生き方もあるな、と思ってくれたら」
印象的な音楽の使われ方、選曲について問われ、「みなさんご存じの通り、ヴィム・ヴェンダースという方は映画における音楽の使い方が世界最高のディレクターだと思います。彼と“平山は何を聴いているのか”と、一緒に選曲をしていきました。脚本の段階で音楽のリストはほとんど出ていたのですが、いちばん驚いたのは、平山が聴いている音楽以外使わないということをある段階で決めたことでした。感情を説明する音楽を入れるんじゃなくて、平山さんが聴いているもの、観ているものを僕たちは受け取るという、その線をきちんと引いたということが彼の素晴らしいディレクションだなと感じました」と高崎。
最後に役所が、「平山さんは、財産といえるものは何も持っていないけれども最低限の生活で日々満足して眠りにつける人物。東京でもニューヨークでも、お金さえあればどんなものも手に入るけれど、手に入れても満足することがない生活をしている人が僕を含め多い中、平山さんは、コンクリートだらけの大都会の中でもひとりだけ、テレビもインターネットもなくて、彼に情報が入ってくるのは彼の耳と目で見るものだけ。森の中で心地よく住んでいるような感じがしました。都会の人たちが、そういえばこんな生き方もあるな、と思ってくれるといいなと感じました」と観客へのメッセージを送り、Q&Aは締めくくられた。
『パリ、テキサス』(1984)、『ベルリン・天使の詩』(1987)など数々の名作を発表し、80年代、90年代のミニシアターブームを牽引、『Pina ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち』『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』など多くのドキュメンタリーも手がけた、ドイツの名匠ヴィム・ヴェンダース。そして、アカデミー賞で6部門ノミネートされた『SAYURI』(2005)、海外での活躍以外にも『うなぎ』(1997)、『ユリイカ』(2001)、『すばらしき世界』(2020)などで主演を務め、世界的に高い評価を受けている日本を代表する俳優、役所広司。2人の美しきセッションで生まれた『PERFECT DAYS』は、フィクションの存在をドキュメントのように追い、ドキュメントとフィクションを極めた。ヴェンダースの最高傑作と呼び声も高く、待望の公開が世界各国でいよいよはじまりまる。
『PERFECT DAYS』は12月22日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー